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「Cシリーズはニッチ」ボンバルディア、2強なき市場に挑戦 特集・CS100とCS300日本参入なるか

 7月に入り、ボンバルディアの小型旅客機「Cシリーズ」が商業運航を開始した。100-150席クラスの機体で、すでに350機以上の確定発注を獲得。2020年には255機から315機を引き渡し、損益分岐点に到達させる計画だ。26日、ボンバルディアでCシリーズに携わる幹部3人が来日し、同クラスの市場規模や優位性などを報道関係者に説明した。

ボーイングとエアバス不在の市場に挑むCS300=15年6月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
世界2強不在の機体サイズ
確定発注だけで350機超
東京からバンコク・シンガポールも
シートも通路も幅広
どこへ売り込む?

世界2強不在の機体サイズ

 CシリーズはCS100(108-135席)とCS300(130-160席)の2機種で構成。初飛行はCS100が2013年9月16日、CS300は2015年2月27日に成功している。これまで100-150席クラスに収まる機体は、ボーイングが737-600、エアバスがA318を製造していた。しかし、新型の低燃費エンジンを採用した発展型の737 MAXやA320neoのラインナップでは、このクラスの機体はなくなり、世界の2強が不在の市場となった。

ファンボロー航空ショーに飛来したスイス塗装が施されたCS100の飛行試験5号機=16年7月10日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

大型のオーバーヘッドビンを備えるCS100の機内=16年7月10日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ボンバルディアでは、Cシリーズに直接の競合機種はないとしながらも、737 MAX 7やA319neoと比べて燃料消費量を20%、運航コストを乗客1人あたり18%、整備コストを25%抑えられるとしている。

 エンジンは米プラット・アンド・ホイットニー社製GTF(ギヤード・ターボファン)エンジン「PurePower PW1500G」を搭載。二酸化炭素(CO2)排出量は20%、窒素酸化物(NOx)排出量は50%削減できる点がセールスポイントのひとつだ。

 客室はキャリーバッグを収納できる大型のオーバーヘッドビン(手荷物収納棚)や、A320と比べて15%大きい窓、シート幅が最大19インチ(約48.3cm)であるなど、居住性の高さをアピールする。

 CS100のローンチカスタマーであるスイス インターナショナルエアラインズ(SWR/LX)には、6月29日に初号機(登録番号HB-JBA)を引き渡し、7月15日から商業運航を始めた。同社はCS100とCS300を15機ずつ計30機発注済み。就航したCS100の座席数は、2クラス125席(ビジネス20席、エコノミー105席)となっている。

 一方、CS300はラトビアのLCC、エア・バルティック(BTI/BT)がローンチカスタマー。追加発注の7機を含めて計20機を発注済みで、今年10-12月期に初号機の引き渡しを予定している。

確定発注だけで350機超

Cシリーズの市場を説明するソレム氏=16年7月26日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「Cシリーズはニッチな機体だが、全世界で運航されている旅客機の75%以上は100-150席だ」。ボンバルディアの中国・アジア太平洋地域セールス担当バイス・プレジデント、アンディ・ソレム氏は、ボーイングやエアバスが小型機をより座席数の多い機種へシフトさせたことによる、市場の空白地帯を埋めるCシリーズを、こう表現した。

 ソレム氏は、「16社から確定発注を得ており、20年間で7000機の需要を見込んでいる。アジア太平洋地域でもっとも大きい市場は中国だが、日本では約600機の旅客機が運航されており、10年から20年間に100機位の需要を想定している」と、期待感を示す。

 ボンバルディアはCシリーズの開発費がかさんだことなどで、経営危機がささやかれた時期があった。ケベック州がCシリーズのプロジェクトに対して出資したことや、今年に入りデルタ航空(DAL/DL)やエア・カナダ(ACA/AC)が大量発注。シニア・バイス・プレジデントのコリン・ボール氏は、「キャッシュは非常に潤沢」と現状を説明する。

Cシリーズの現状を説明するボール氏=16年7月26日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 Cシリーズの米国でのローンチカスタマーであるデルタは、4月にCS100を75機確定発注。50機のオプションを含めると、最大125機のCS100を米国内線に導入する。ボンバルディアの民間機受注では過去最大で、初号機の引き渡しは2018年春を予定している。

 エア・カナダは6月にCS300を45機確定発注。同型機30機のオプションも設定しており、引き渡しは2018年に開始し、2019年から2020年に運航を開始する。

 ボール氏は「スイスがCS100を商業運航する前に300機の確定発注を得た。現在は確定発注だけで350機超だ。今後数カ月で、さらに大きな受注を発表できることを期待している」と、好調さを強調する。

 一方、エンブラエルが開発を進める「E2」シリーズや、三菱航空機が開発中の「MRJ」は、100席未満が中心であり、航続距離も短いことから「競合しない」(ボール氏)との見方だ。

東京からバンコク・シンガポールも

 ニッチ市場を攻めるCシリーズ。開発責任者で、Cシリーズのジェネラル・マネジャーを務めるバイス・プレジデントのロブ・デューワー氏は、「737は70年代、A320は80年代に開発された機体。Cシリーズは、小型機ではこの30年間で開発された唯一の新型機だ。キャリーバッグを機内に持ち込みたいといった要望に沿っている」と、航空会社が現在求めている性能や仕様を実現できると自信を示す。

座席数ごとのボーイングとエアバス、エンブラエルの機材分布を示すCシリーズ開発責任者のデューワー氏=16年7月26日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 デューワー氏は「CS100の燃費は、1リッターあたり競合機より50km優位性があり、メンテナンスコストも24%低い。A319と比べると1万3000ポンド軽く、運航コストは1300万ドル削減できる」と、設計の新しさから経済性が実現出来るとアピールする。「CS100とCS300の部品は99%共通化しており、パイロットのライセンスも共通だ」(デューワー氏)と、座席数の異なる2機種であっても共通性が高いと語る。

 Cシリーズの航続距離はCS100が3100海里(5741km)、CS300が3300海里(6112km)。東京を中心とすると、CS300はバンコクやシンガポール、グアムまで届く。デューワー氏は「東京から国際線も飛ばせる。日本のマーケットは今後も伸びる」と、航続距離の長さを説明した。

 また、最大離陸重量はCS100が13万4000ポンド(6万781kg)、CS300が14万9000ポンド(6万7585kg)、最大着陸重量はCS100が11万5500ポンド(5万2390kg)、CS300が12万9500ポンド(5万8740kg)、最大ペイロードはCS100が3万3350ポンド(1万5127kg)、CS300が4万1250ポンド(1万8711kg)。「エンジン出力が高い機体、最大離陸重量が高い機体など、さまざまなオプションを用意できる」と語った。

シートも通路も幅広

 最大シート幅が19インチとなる客室についても、「ナローボディー(単通路機)ながらワイドボディー(双通路機)の快適性を実現した。737と比べてシート幅は2インチ広い。通路も20インチあり、客室乗務員や乗客が移動しやすい」と、経済性だけではなく高い顧客満足度につながると説明した。

大きな窓が特徴のCS100の機内=16年7月10日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

大型ディスプレイが採用されたCS100のコックピット=6月17日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ボンバルディアが示すCシリーズの座席数は、CS100が2クラスの場合108席(うち上級クラス8席)でシートピッチは上級クラス38インチ(96.5cm)とエコノミークラス32インチ(81.3cm)、1クラスの標準が120席でピッチが32インチ、高密度配列が125席でピッチが30インチ(76.2cm)、最大座席数が133席でピッチが28インチ(71.1cm)となる。

 CS300は、2クラスでは130席(うち上級クラス12席)でシートピッチは上級クラス36インチ(91.4cm)とエコノミー32インチ、1クラスの標準が140席で32インチ、高密度配列が150席で30インチ、最大座席数が160席で28インチとしている。デューワー氏は、CS300で東京から最大航続距離を運航する場合、「2クラス130席で運航できる」と述べた。

 「CS100はカナダ運輸省、FAA(米国連邦航空局)とEASA(欧州航空安全局)から型式証明を取得しており、CS300も11日にカナダ運輸省から取得した。FAAとEASAからも、数カ月以内に取得できる見通しだ」(デューワー氏)と開発が順調であることを強調する。生産体制についても、カナダのミラベル工場は「自動化が進んでいる。今年の生産レートは年15機から20機だが、2020年には90機から120機に増産する」と、月産10機体制に向けて2017年に30-35機、2018年に45-55機、2019年に75-85機と段階的に引き上げていく。

 Cシリーズへの日本企業の参画は、機体本体に限ると「機体で45%使用しているカーボンファイバーは日本企業のもの。IFE(機内エンターテインメントシステム)はパナソニックアビオニクス製(記者注:パナソニック系米国企業)が独占供給している」とデューワー氏は話す。一方、今後日本企業からの調達を増やすかについては、「航空産業は競争社会。日本企業が参画するのであれば分析して、有効であれば期待したい」と述べるに留めた。

どこへ売り込む?

 現在、日本の航空会社が運航するCS100(108-135席)と同サイズの機体は、全日本空輸(ANA/NH)の737-500が1クラス126席で、100席未満を含めると日本航空(JAL/JL、9201)のグループ会社であるジェイエア(JAR/XM)のE190(2クラス95席)がある。

 CS300(130-160席)と同サイズの機体は、ANAの737-700が2クラス120席、ANAホールディングス(9202)が所有しエア・ドゥ(ADO/HD)が運航する737-700が1クラス144席だ。ジェイエアの場合は100席以上の航空機を運航する国の「本邦指定航空会社」となる必要があるが、こうした航空会社がターゲットとなりそうだ。

 一方、航空会社は運航機材の機種を絞り込む傾向がある。果たして、Cシリーズは日本市場に参入出来るだろうか。

普通席が2+3配列となるCS100の機内=16年7月10日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

普通席が2+3配列となるCS100の機内=16年7月10日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

Cシリーズの航続距離=16年7月26日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

CS100とCS300の座席レイアウト=16年7月26日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

Cシリーズのコックピットを説明するデューワー氏=16年7月26日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

関連リンク
Cシリーズ [1](ボンバルディア)
Bombardier [2]

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