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「東京より新鮮な魚が届きます」特集・JALが運ぶバンコク トンロー市場の生鮮品

 政府の水際対策緩和で、10月11日からは訪日客が徐々に戻り始めた日本。円安により、高品質なものを安く買えるというのも外国人が日本を訪れる理由のようだ。訪日需要に加えて、和食が世界的に受け入れられてきたことにより、海外で良質な日本の食材を買い求める人が増えた。

日本から空輸された鮮魚が並ぶトンロー日本市場=22年9月10日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 日本航空(JAL/JL、9201)傘下のJALUX(ジャルックス)は、タイに合弁企業「J VALUE」を設立し、「バンコクの青山」とも言われるスクンビット・トンロー地区に日本生鮮卸売市場「トンロー日本市場」をコロナ前の2018年6月9日にオープン。鮮魚や野菜、果物、牛肉などを現地のレストラン、ホテルなどに提供するほか、バンコクで暮らす人々も買い物に訪れている。

 今年9月9日には、日本の宅配寿司「銀のさら」が海外フランチャイズ1号店を市場内にオープン。デリバリーだけでなく、市場内でも握りずしを販売している。

 トンロー日本市場には全国各地の生鮮品が並ぶ。JALは日本国内の農水産品の輸出支援を手掛けており、流通はJAL、JALUXに加えて、JALグループのジュピター・グローバル・リミテッド(JUPITER GLOBAL LIMITED、香港)の3社が担い、日本からバンコクへ空輸後、市場まではジュピターのタイ現地法人が陸送している。

 「地方からだと東京よりも新鮮なものが届きますよ」と話すJ VALUEの遠藤春雄社長に、市場の現状を聞いた。

—記事の概要—
産地から24時間で到着
「長く続くところは日本人が品質管理」

産地から24時間で到着

 9月10日午前9時すぎ。日本から届いた鮮魚を積んだトラックがトンロー日本市場に着いた。新千歳や出雲、鹿児島と全国各地の空港から羽田に集まった魚介類や、神奈川県三浦海岸など羽田周辺から届いたものがバンコクまで空輸されてきたのだ。この日は鹿児島県産のコバンザメも積荷に入っていた。

日本からトンロー日本市場に到着した鮮魚=22年9月10日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「午後2時までに羽田へ入れば、JL33便で翌朝5時にバンコクへ着きます」と遠藤さん。この便は定刻ベースで羽田を午前0時35分に出発し、バンコク着は午前5時ちょうど。積荷は通関を経て陸送されるが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により空港のハンドリング業務は世界的な人手不足に陥っており、JAL便が乗り入れるスワンナプーム空港も例外ではない。

 市場をオープンした当初は、東京の豊洲市場経由で鮮魚を輸入しており、産地で水揚げ後5-6日はかかっていたという。現在は各地の漁協と契約し、産地から直送する体制を構築後は、ほぼ24時間でバンコクまで届くようになった。「毛ガニなどは48時間たつと半分は死んでしまいます。今は魚がキラキラしていてマグロも新鮮です」と、鮮度が大幅に向上した。

トンロー日本市場でコバンザメを手にするJ VALUEの遠藤社長=22年9月10日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

トンロー日本市場に到着した鹿児島県産のコバンザメ=22年9月10日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 遠藤さんに話を聞いていると、いけすから伊勢エビが飛び跳ねた。「お盆前に来て1カ月くらいですが元気です」と遠藤さんは笑う。いけすには「ウルトラファインバブル」と呼ばれる1μm(マイクロメートル)未満の泡を発生させる装置を導入したことも、鮮度維持につながったという。

 品ぞろえはマグロやウニ、カキ、ハマチ、マダイ、ホタテなど。「安売りはせず、日本の食材を適正価格で持ち込みたいです」といい、今後は市場で扱う鮮魚以外のものも組み合わせて空輸量を増やして送料を抑えていく。航空貨物は500キログラムと1トンでは運賃が異なり、1トンで運べると一度に大量輸送するメリットが出てくるそうだ。

「長く続くところは日本人が品質管理」

 トンロー日本市場は、レストラン街だった施設を改修してオープン。利用者の9割はタイ人で、コロナで日本へ旅行できない時期も多くの人が訪れ、「昨年初めて黒字化しました」と認知度が高まった。タイは相続税がなく、若い人でも圧倒的なお金持ちが存在するといい、若者も積極的に消費する点が特徴だという。

日本から空輸された鮮魚が並ぶトンロー日本市場=22年9月10日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 また、バンコクはインドやラオス、パキスタンといった近隣の駐在員が買い出しや健康診断などでやってくるといい、バンコク以外の需要も期待できる。

 9月に市場内にオープンした「銀のさら」のすしネタは、長崎県の五島列島やオホーツク海で捕れた魚などを使用。市場で販売している鮮魚と同様、産地から豊洲を介さずにバンコクへ運べるため、海外でも新鮮な宅配寿司を提供できる。販売価格は食材の空輸費用が加わるため、日本の1.5倍程度だという。

トンロー日本市場内にオープンした「銀のさら」=22年9月10日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「バンコクは道が悪いので、すしが揺れて崩れないよう、日本の出前機を輸入しました」と、バイクの後部に岡持ちや寿司桶(すしおけ)を引っかけ、揺らさずに運ぶ「出前機」を導入した。

 今後の課題は品質の維持だ。「今は日本人が2人います。海外で長く続いているところは日本人が品質を管理していますね」と、日本のサービス品質を維持するためには、日本人による品質管理は不可欠だと遠藤さんは実感している。

  ◆ ◆ ◆

 銀のさらがバンコクでもシェアを伸ばせば、それだけ鮮魚の扱い量が増え、重量が重ければ重いほど安くなる物流コストのメリットを享受できる。また、トンロー日本市場で扱う鮮魚以外の生鮮品の販売が増えることも、販売価格の引き下げにつながる。

 バンコクを足がかりに、日本から産地直送でおいしい生鮮品が東南アジアで食べられれば、日本に行って食べてみたいという訪日需要だけでなく、日本からの農水産品の輸出拡大にもつながりそうだ。

関連リンク
トンロー日本市場 [1](J VALUE)
「銀のさら」バンコク1号店 [2]
日本航空 [3]
JALUX [4]
JUPITER GLOBAL LIMITED [5]

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