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帯広のエアシェア、プライベート機もパイロットもシェア 特集・”宇宙のシリコンバレー”のいま(2)

 宇宙ロケットや宇宙船の打ち上げ拠点「スペースポート(宇宙港)」の整備を進める北海道十勝地方の大樹町。町はアジア初の民間に開かれた宇宙港を目指して「北海道スペースポート(HOSPO)」と命名し、町が筆頭株主となり道内6社と出資する宇宙港の運営会社「SPACE COTAN(スペースコタン)」が2021年4月に設立された。

エアシェアの進藤CEO=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 大樹町では町内に本社を置くインターステラテクノロジズ(IST)をはじめ、ロケットを打ち上げる事業者向けに射場の整備を進めている。現在はISTが現在ロケットの打ち上げに使用している射場「Launch Complex – 0(LC-0)」のみだが、2023年の運用開始を視野にISTが開発中の2段式ロケットト「ZERO」の打ち上げを想定した「Launch Complex – 1(LC-1)」、海外の事業者向けに2025年運用開始予定の「Launch Complex – 2(LC-2)」を整備する計画が決まっている。

 町とスペースコタンは、企業版ふるさと納税などを活用して資金調達を進めている。2月9日の発表によると、2021年度は68社から6億2350万円の支援が寄せられ、目標の5億円を達成できた。

 射場のほかにもHOSPOには長さ1000メートル、幅30メートルの滑走路が1本ある。しかし、現在は小型プロペラ機しか離着陸できず、ビジネスジェットが乗り入れるには短いため、延長が計画されている。将来的にはロケットの打ち上げに必要な資材などの空輸を視野に、大型機も離着陸できる新滑走路に改める構想もある。

大樹町の北海道スペースポート「HOSPO」=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 宇宙ベンチャーとも言えるビジネスに資金が集まる中、大樹町から車で1時間ほどの帯広市内には、航空ベンチャーも立ち上がっている。自らもパイロットライセンスを持つ地元出身の進藤寛也CEO(最高経営責任者)が2016年に設立した、航空シェアサービスを運営するエアシェア(帯広市)だ。

 HOSPOを核に航空宇宙産業が集積する「宇宙のシリコンバレー」を目指すプロジェクトが進む中、ビジネスジェットや小型プロペラ機などプライベート機を使用するハードルが下がれば、大樹町の利便性向上も期待できる。例えば帯広空港から大樹町までは車で40分ほどだが、帯広空港からHOSPOの滑走路へ直接降りれば片道20分程度のフライトになる。ビジネスジェットが乗り入れられるようになれば、羽田から大樹町へ直接飛ぶことも可能だ。

 進藤CEOはどのような狙いで、航空シェアサービスを立ち上げたのだろうか。

—記事の概要—
乗りたい機体とパイロットをマッチング
定期便ないルートも飛べる
*第1回はこちら [1]

乗りたい機体とパイロットをマッチング

 エアシェアは、国土交通省航空局(JCAB)から2020年1月に適法性と安全対策が認められ、サービスがスタート。搭乗する人数、日時、空港を選び、エアシェアに登録された航空機の中から利用したい機材を選び、パイロットにオファーする仕組みだ。「登録はプロパイロットのみで、航空身体検査を受けている」と進藤CEOは説明する。

既存の小型航空系サービスとの違い(エアシェアの資料から)

 機体やパイロット、運航の安全性を確保した上で、航空機のチャーター会社や有償フライトができない会員制フライトクラブの間に位置するサービスを提供。例えばチャーター会社で運航できる機材は自社登録の事業機のみで、フライトクラブはそもそも事業として運航することができない。両者が持つ不自由さの解消を狙った。

 エアシェアは、プラットフォーマーとしてプライベート機で移動する利用者と、機体のオーナーから手数料を受け取るビジネスモデルで、パイロットからはシステム利用料を徴収しない。利用者は自ら機体を所有するよりも安価に利用でき、オーナーは機体貸出による収入を得られ、パイロットは飛行時間を積み増すことができる。

 機体登録は20機以上、パイロットも20人以上となっており、進藤CEOは「飛行機よりヘリが多い」といい、利用用途によってはヘリの方がフライトを柔軟に組めるという。

定期便ないルートも飛べる

 プライベート機は費用が高くなる反面、出発時間や飛行ルート、目的地などは自由に変更できる利点がある。HOSPOの滑走路のように、定期便が発着していないところにも機体が運航可能であれば乗り入れられるため、乗り継ぎのロスもない。

帯広空港で出発を待つセスナ172=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 進藤CEOは「片道500キロ程度までであれば、もっとも速く自由に移動できる手段」と、プライベート機やパイロットをシェアするメリットを語る。

 例えば東京から石川県の能登半島へ向かう場合、定期便は全日本空輸(ANA/NH)の羽田-能登線の飛行時間が約1時間、フライト前後に空港で待機する時間を約1時間とすると、片道約2時間かかる。鉄道は東京駅から石川県穴水駅まで約4時間30分かかり、定期便よりさらに時間を要する。エアシェアでプライベート機を利用する場合は空港での待ち時間がないため、調布飛行場から能登空港へ向かうと約1時間40分で済む。

 エアシェアの料金は、単発プロペラ機シーラスSR22を調布から能登まで4人で利用する場合、1人当たり4万1200円。羽田-能登線のプレミアムクラス普通運賃3万390円と差額は1万円程度となる。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、プライベート機は感染防止策としても活用されている。大手航空会社のグループ会社からは、ホンダジェットで羽田-新千歳間を往復250万円程度で飛ぶチャータープランなどが提示されている。進藤CEOによると、エアシェアでは機材を双発ターボプロップ機パイパーPA-42-1000「シャイアン」に変えることで、フライト時間はほぼ同じで150万円に抑えることも可能だという。

 今回の大樹町取材で、帯広空港から同町まではエアシェアに登録しているパイロットが操縦する単発プロペラ機セスナ172に試乗した。ISTがロケット捜索などで使っている機体で、大樹町や運用中の射場「LC-0」を空から取材した。

HOSPOの滑走路から離陸するセスナ172=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

大樹町へ向かうセスナ172から見た射場「LC-0」=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

  ◆ ◆ ◆

 コロナ前はプライベート機を活用したサービスというと、海外からの富裕層の国内チャーターといった分野が目立っていたが、現在は企業のリスク対策など観光以外の用途でも注目されている。一方で、自動車のようにプライベート機が使われている米国などと異なり、日本でのプライベート機を活用するハードルはまだ高いと感じるのが現状だ。

 大樹町での宇宙ビジネスも、帯広空港から車で町まで移動するよりは、直接HOSPOの滑走路に降りられる方が効率が良い。エアシェアであれば、プライベート機を活用するコストを抑えることも可能になり、HOSPOからロケットを打ち上げる事業者や、大樹町を中核に北海道内の航空宇宙産業を育てる上でも、拠点間移動の時間短縮にもつながる。

 十勝からは宇宙だけでなく航空分野でも新たな挑戦が続いている。

(つづく)

関連リンク
エアシェア [2]
HOSPO [3]

特集・”宇宙のシリコンバレー”のいま
(1)北海道大樹町内で完結する低コスト宇宙ロケット  [1]

HOSPO
北海道大樹町に「宇宙港」 25年までに発射場2カ所、運営会社社長に元ANA小田切氏 [4](21年4月22日)

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