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JALのCA、就活後も役立つ夏季講座 学生向けにスタート

 「非航空系事業は3割くらいまで持っていきたい。コロナで航空事業に頼り切りの事業ポートフォリオを見直すコンセンサスが生まれてきた」。日本航空(JAL/JL、9201)の赤坂祐二社長は、昨年9月の本紙インタビュー [1]で非航空系事業の強化に言及した。コロナ前から着手しているものも含めると、さまざまな事業がスタートしているが、即効性が期待できるのは本業とのつながりが強い領域だ。

 JALは今後4年から5年かけて、非航空系事業を1000億円程度まで成長させる。中でも力を入れているのが、約7000人いる客室乗務員が活躍する分野だ。赤坂社長は「うちの客室乗務員は非常に優秀」と明言し、結婚や子育てで乗務から離れる客室乗務員が活躍できる場としても乗務以外の職場を整備する。「客室乗務員に限らず、定年まで働ける環境を作りたい」(赤坂社長)と、長く働ける職場環境を作ることで、社員のスキルを生かせる企業風土の醸成につなげる。

JALビジネスキャリアサポートの学生向け夏季講座を手掛けるチーフキャビンアテンダントの廣瀬惠子さん(後列右から2人目)ら=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ほかの大規模な企業と同様、JALも社員教育に力を入れており、国際線が9割近く運休した2020年も客室乗務員の一時帰休は実施せず、乗務のない日はコロナ後に求められるサービスが何かを考え、必要なスキルを磨いていくテレワーク教育を進めてきた。

 こうした教育を事業化したものが、今年4月にスタートした新規事業「JALビジネスキャリアサポート(JAL-BCS)」だ。客室乗務員がマナーレッスンなど、普段の乗務と親和性の高いジャンルの講師を務める。7月からは就職活動をする学生を主な対象として、社会人になってからも役立つスキルを伝える夏季講座を始め、留学を希望する学生向けに外国人客室乗務員も講師として参加する英語の講座も用意した。

 JALが考える就活テクニックではない学生向け講座とは、どういうものなのだろうか。

—記事の概要—
就活後も役立つ講座に
出発点は自分を理解すること
どの業種でも求められるものを

就活後も役立つ講座に

 JAL-BCSは、講座の企画や運営を手掛けるスタッフ15人のうち多くが客室乗務員で、講師はJALの客室乗務員の中でも教官などの教育経験があり、社内認定を受けた約50人が乗務と兼務する形で務める。

都内で全旅連青年部の部員向けにマナー講座を開くJALの客室乗務員=21年4月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「これまでは社会貢献の一環として、大学などに講師を派遣してきましたが、今回はビジネスとして教育に取り組みます」と、JALで産学連携に取り組んできた産学連携部の栢沼(かやぬま)史好部長は話す。

 JAL-BCSは従来の産学連携を発展させたものだ。発足直後の4月には、連携協定を結ぶ全旅連青年部(全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部)向けに、おもてなしや訪日外国人の接客、スタッフ間の連携などの講座を開いた。接客やコミュニケーションといった、JALが客室乗務員の育成で実践してきたものを社外向けの講座として組み立て直し、企業や自治体などに向けて提供を始めたものだ。

 そして、7月からは学生向けに「『自分を知る』5日間」と題した夏季講座を開設。就職活動で不可欠となる、自分の強みと弱みを把握することが目的の一つだが、企画した産学連携部のチーフキャビンアテンダント(先任客室乗務員)、廣瀬惠子さんは「今回は就活に特化したものではなく、その後も役立つものを考えました」という。

 今回の夏季講座は5日間で構成し、1日の講義は午前9時から正午までの3時間で、途中に休憩を挟む。1日目から4日目まではビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」によるオンライン開催、5日目はJALの本社などでの対面開催を予定している。初回は7月27日開始の日程で、最終日の開催地は東京だが、大阪と名古屋、札幌、福岡でも開く。

 5日間の費用は6万3800円(税込)。進学塾などで1日2コマの講義を受講するような費用感が近いようだ。募集人数は20人で、最少催行人数は10人としている。

出発点は自分を理解すること

 講座の主な対象は大学生や専門学校生だが、企業の採用活動のトレンドを追ったり、就活テクニックを磨くものではないという。廣瀬さんは「就活対策では、(採用試験を)突破するだけになってしまいます。学校を卒業し、社会に出てから新しいことに挑戦する時に、自信を持って挑めるものを目指しています」と話す。就活テクニックを直接教えるというよりは、自身の考え方を見直したり、自分に自信を持つことが、結果的に就活を突破できる力につながるのだという。

JALが4月にスタートさせた新規事業「JALビジネスキャリアサポート」のオフィス。客室乗務員も企画運営に携わる=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「客室乗務員の仕事は決まった答えではなく、自分なりの答えを求められる機会が多いのですが、(職種を問わず)そういう場で自信を持って自分の考えを示せるようになって欲しいです」(廣瀬さん)と、訓練や教育で教えられたこと以外にも正解がある客室乗務員の育成から得たノウハウにより、受講者が自らの考えを相手に伝えられるようにすることも、狙いの一つだ。

 まず、受講生と講師が1対1でZoomミーティングする時間を設け、受講者の強みや課題を洗い出すようにした。1日目は自分自身を見つめる時間とし、2日目に自分の出来ることとしたいことのギャップを埋め、3日目に物事の受け止め方や心の整え方のヒントをつかみ、4日目に講座を通じて見つめ直した自分の姿を「セルフ・イントロダクション・カード」を作成することで“見える化”する。最終日の5日目は作成したカードを基に発表する。

 夏季講座の内容は、JAL-BCSが立ち上がった4月から3カ月ほどでまとめたが、社内の教育プログラムを転用したものではなく、一から組み上げた。「いつから学校が夏休みなのかの確認から始まり、どういうものが望まれているのか、オンラインでどうやって伝えるかなど、産学連携で講師を務めている客室乗務員や社員から情報を集めるところから始めました」(廣瀬さん)と、手探りでプランを練っていった。

 同時に立ち上げたのが、英語でコミュニケーションスキルなどを学ぶ夏季講座「異文化コミュニケーションとコミュニケーションスキルを英語で学ぶ4日間」だ。海外基地所属の外国人客室乗務員も講師としてオンラインで参加し、最後の4日目は英語でプレゼンテーションする。栢沼部長は「コロナで留学できないという声があり、外国人と英語でコミュニケーションする講座を用意しました」と述べ、海外への渡航が難しい中で寄せられたニーズに応えるものだという。

どの業種でも求められるものを

 JALが教育事業に進出するのは今回が初めてではない。直近では客室乗務員を目指す学生を対象に、2013年から今年3月まで運営に参画していた「JALエアラインアカデミー」があった。コロナの影響で新卒採用が難しくなったことで終了したが、客室乗務員としてのテクニックを学ぶ場ではなく、一人の人間として、社会人として大切なことが何かを重視していた。

学生向け夏季講座を担当する廣瀬さんは全旅連青年部向けマナー講座でも講師を務めた=21年4月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 今回の夏季講習は、アカデミーと異なりJALが単独で開くものだが、JALの採用と関係がない点は共通している。講義内容も航空会社の内定を手っ取り早く獲得するものではなく、自己啓発につながるものだ。企画の携わった社員たちは異口同音に、就活テクニックに重点を置く講座はすでに社外に存在するので、JALが提供できる価値が何かを考えたという。

 廣瀬さんは「私たちが社会人になって知ったことの中には、もっと早く知っていれば、と思うものも多いです」と、どの業種でも社会人として普遍的に求められる人材育成につながる内容を考えた。

 自分の考えを相手に伝えるためには、まず自分を理解した上で自信を持ち、自分から行動する。廣瀬さんたちが考えた講座は、こうした行動を自発的に取れる人物になるためには、どのように自分を変えていけば良いのかを受講者に気づいてもらい、バックアップしていくことを重視しているようだった。

関連リンク
JALビジネスキャリアサポート [2]
日本航空 [3]

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