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なぜ羽田-仙台定期便は飛んでいないのか 臨時便は受験生も利用

 福島県沖を震源とする地震の影響で一部運休が続いていた東北新幹線が、2月24日の始発から全線で運転を再開する。これに伴い、航空各社が地震翌日の14日から運航してきた臨時便や機材の大型化は徐々に収束し、月内には役割を終える見通しだ。

出発客で保安検査場が混雑する仙台空港=21年2月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 臨時便は仙台や福島、花巻といった羽田発着の定期便のない空港にも飛んだ。羽田-仙台間の臨時便は、10年前の東日本大震災以来で、羽田の定期便も山形線や秋田線、青森線、三沢線で臨時便が設定され、大型化した便もあった。

 私は東日本大震災で被災し修復されたグランドピアノが仙台空港でお披露目されるのを取材するため、19日に羽田から臨時便で仙台入りした。13日の地震より前に決まっていた取材だったため、当初は東北新幹線で向かうつもりだったが、目的地が空港である以上、鉄道を乗り継ぐよりも便利なため、迷うことなく臨時便を予約した。

 行きは羽田を午前7時に出発する全日本空輸(ANA/NH)のNH1501便、帰りは仙台を午後6時に出る日本航空(JAL/JL、9201)のJL4920便を利用したが、NH1501便は6割強の座席が埋まっており、JL4920便はほぼ満席だった。

 飛行時間は約1時間と短く、仙台市内に用事がある人や鉄道を乗り継ぐ人であれば、東北新幹線のほうが便利だろう。しかし、なぜ東北最大の都市にもかかわらず、羽田-仙台間の定期便はないのだろうか。

—記事の概要—
受験生も臨時便利用
国際線とのバランス

受験生も臨時便利用

 羽田空港の発着便は、航空会社にとってドル箱だ。しかし、定期便を運航するためには国が配分する発着枠を獲得しなければならない。限りある発着枠を有効活用するとなると、新幹線が有利な路線よりも、収益性が高い路線を優先せざるを得ない。羽田-仙台線がいま存在しない大きな理由の一つが、羽田の発着枠や新幹線との競争環境と言えるだろう。

仙台空港でお披露目された復興空港ピアノ=21年2月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 19日に仙台空港を訪れたのは、ターミナル1階のセンタープラザに3月12日まで設置されている「復興空港ピアノ」のお披露目を取材するため。同空港初のストリートピアノで、誰でも演奏できるものだ(関連記事 [1])。

 やはり東京駅から仙台駅まで東北新幹線に約1時間半乗り、仙台駅から空港まで25分ほど仙台空港アクセス線を乗り継いで空港入りするよりも、羽田から仙台まで約1時間の空路の方が楽だった。

 空港を運営する仙台国際空港会社の岡﨑克彦・航空営業部長によると、臨時便の乗客には、受験生とみられる利用者もみられたという。出張需要や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などによる医療従事者の移動だけでなく、この時期ゆえの需要もあったのだ。

 しかし、羽田-仙台間の定期便が運航されなくなったのは、発着枠や競争環境といった理由だけなのだろうか。

国際線とのバランス

 仙台と同じく1時間ほどの羽田と主要都市を結ぶ路線では、中部(セントレア)線が存在する。しかしこの路線は東京と名古屋を結ぶというよりは、羽田発着の国際線へ乗り継ぐ「フィーダー便」としての役割を主眼に置いている。

仙台空港と同じく羽田から約1時間ほどの中部空港。自前の国際線とのバランスが難しいという=17年5月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 以前、セントレアを運営する中部国際空港会社の人に「羽田-中部線は便利ですね」と感想を述べたところ、「うちにとっては非常に微妙なんです。羽田へのアクセスが良くなりすぎてしまうと、うちの国際線に影響があるんですよ」と、本音を明かしてくれた。

 かつて中部から羽田へ向かう便に乗った際、定年後に海外旅行を楽しんでいるという隣席のご夫婦と話をしていたところ、欧州を周遊するということだった。中部発着の欧州便が充実していれば、このご夫婦も中部から直接旅立っただろうが、多くの航空会社は羽田や成田に日本路線を集約する傾向が強いと言えるだろう。また、旅行会社のツアーも羽田や成田発着の商品が主力になってしまう。

 仙台の場合、普段であれば仙台市内に到着する東北新幹線のほうが多くの人にとって利便性が高く、首都圏との移動は新幹線が有利なエリアだ。空港側の懸念材料としては、羽田への定期便ができると新たな客層を呼び込める可能性がある反面、中部の懸念と同じく国際線の利用者が羽田へ流れてしまう恐れがあり、自らの新路線誘致が難しくなってしまう点だ。

 仙台空港とセントレアでは、中心部への移動に掛かる時間が異なるため、一概に同じ状況とは言えない。しかし、最大の課題と言える羽田空港の発着枠が限られており、仙台発着の国際線とのバランスなどを考えると、羽田-仙台間の定期便開設は旅客需要が回復後も難しいだろう。

 また、仙台空港を拠点とし、ANAとコードシェアするアイベックスエアラインズ(IBEX、IBX/FW)が成田-仙台線を設定していたが、新型コロナの影響で2020年4月8日の運航を最後に運休。夏ダイヤ最終日の10月24日で成田から撤退している。

 首都圏と仙台を結ぶ空路は、今回の臨時便の運航が終わると、しばらく途絶えてしまいそうだ。せめて高需要期だけでも臨時便を運航できれば、新たな需要を創出できるのではないだろうか。

関連リンク
仙台国際空港 [2]
日本航空 [3]
全日本空輸 [4]
JR東日本 [5]

臨時便の搭乗記
保安検査は長蛇の列 搭乗記・定期便ない羽田-仙台ANA/JAL臨時便 [6](21年2月23日)

復興空港ピアノ
仙台空港、復興ピアノ「ローラ」お披露目 東日本大震災で海水浸る [1](21年2月20日)

臨時便
JAL、東北臨時便24日まで4路線 新幹線全線再開で [7](21年2月20日)
ANA、羽田-仙台のみ臨時便 24日から27日 [8](21年2月18日)
IBEX、伊丹から東北臨時便 仙台・福島へ、19日から [9](21年2月17日)
スカイマーク、羽田-仙台臨時便 18日から1日1往復 [10](21年2月17日)
JALとANA、定期便ない仙台・福島など臨時便 16日も運航 [11](21年2月15日)