- Aviation Wire - https://www.aviationwire.jp -

ANA、武漢チャーターで外相から感謝状 空港所長「混乱やクレームなかった」

 外務省は6月23日、中国・湖北省武漢からの邦人帰国チャーターを運航した全日本空輸(ANA/NH)に感謝状を贈った。授与式にはANAの平子裕志社長とチャーター便の運航に携わった社員代表5人が出席し、茂木敏充外務大臣(衆院栃木5区、自民)から感謝状が贈られた。ANAによると、航空会社に外相から感謝状が贈られたのは初めてだという。

外務省から贈られた感謝状を手にする(左から)ANAの支倉機長、石黒チーフパーサー、鶴川所長、汲田アシスタントマネジャー、王マネジャー=20年6月23日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

武漢チャーターの運航について話す支倉機長=20年6月23日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が武漢から拡大する中、ANAは1月29日の初便を皮切りに、計5便の武漢チャーターNH1952便をボーイング767-300ER型機の国内線仕様機(登録記号JA607A)で運航し、828人を羽田へ運んだ。茂木外相は「多くのスタッフが非常に不安で危険が伴うにもかかわらず、全力で退避オペレーションに従事された。その勇気と多大なる貢献に感謝の意を表明する」とねぎらった。

 外務省での授与式後、社員代表の5人は都内のANA本社で報道関係者の取材に応じた。チャーター初便の機長を務めたフライトオペレーションセンター B767部副部長の支倉(はせくら)暢彦機長は「チャーター便がどのように設定され、どのような調整が残っているかを知っていた。自分の中では最初の便を担当するのは自然だと思っていた」と、初便を担当した経緯を語った。

 一方で、1月の時点では効果的な予防策などが明確になっていなかったことから、「少しでも公的なところで示唆されているものがあれば採用した。手洗いがどの程度有効かがわからない中で手指消毒をした」(支倉機長)と、考えられる防止策をとったという。

武漢空港の様子を話す鶴川所長(左)=20年6月23日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 武漢天河国際空港で邦人を迎えた武漢支店空港所の鶴川昌宏所長は、「(閉鎖前の最終便となる)1月23日の便が出た後、空港からいち早く退去しろと言われた。街中が封鎖され、感染リスクが高い仕事なので家族から(出勤を)反対された現地社員もいたが、日本人を助けたいと言ってくれたり、げっそりした私の表情を見て助けてあげようと思ってくれたりと、非常にありがたかった」と振り返った。

 空港での乗客の様子は、「エアコンが止められた状態で長時間待って頂いたが、混乱に陥るとか、クレームは一切なかった。私たちが緊張すればお客様も緊張すると思い、通常通りの笑顔で通常業務を心掛けた」(鶴川所長)と話し、乗客からはねぎらいや心配する言葉をかけられたという。また、武漢空港の検疫官などとのやり取りで乗客をサポートするため、ANA空港センターの王申元・品質管理チームマネジャーが現地ハンドリングや通訳などを買って出て、5便中3便のチャーター便に乗って現地入りして対応にあたった。

機内の様子を話す石黒チーフパーサー(右)=20年6月23日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田を出発し武漢へ向かうチャーター2便目(中央)=20年1月29日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 初便に搭乗した乗客は、機内では「ぐっすり眠っていた」とチーフパーサーを務めた客室センター客室乗務三部乗務第九課の石黒麻里子リーダーは振り返った。乗客同士、乗客と客室乗務員の接点を減らすことを心掛け、機内アナウンスも最小限に留めたという。石黒リーダーはチャーター便の乗務について、「恐怖感と不安はなく、安心して乗務できた」と語った。

 チャーター便が到着したのは、羽田空港国内線第2ターミナル北側のサテライト施設。サテライトは、連絡バスを使用しなければ第2ターミナル本館と往来できず、その他の空港利用者と帰国者の接触がないことから選ばれた。サテライトの活用は、ANAエアポートサービスの旅客サービス部国内業務課の汲田茉莉子アシスタントマネジャーが発案し、国際線旅客に対応できるよう、検疫や入国、指定施設への搬送に対応できるようにした。通常とは異なる運用のため、「初日は喫煙所などに課題があった」といい、日を追うごとに改善していったという。

 武漢チャーターは初便を1月29日、翌30日に2便目、31日に3便目を運航。2月に入り、4便目を7日、17日に最後の5便目を運航し、828人の帰国者を運んだ。帰国者数は初便が206人、2便目がもっとも多い210人で、3便目が149人、4便目が198人で、5便目はもっとも少ない65人だった。

 初便には客室乗務員が6人乗務したが、帰国者が少ない5便目は3人で対応。当初はマスクと手袋で乗務していたが、3便目からは防護服も着用して乗務した。パイロットは2便目までが2人乗務で、3便目からは3人になり、すべて機長資格保持者が担当した。

武漢チャーターNH1952便運航実績
1便目 武漢(04:57)→羽田(08:41)運航日:1月29日
2便目 武漢(04:56)→羽田(08:48)運航日:1月30日
3便目 武漢(06:45)→羽田(10:20)運航日:1月31日
4便目 武漢(06:42)→羽田(10:12)運航日:2月7日
5便目 武漢(03:19)→羽田(06:50)運航日:2月17日

関連リンク
全日本空輸 [1]
外務省 [2]

武漢チャーター
武漢チャーター機、羽田2タミサテライト”貸切”で感染防ぐ 普段は国内線用 [3]
武漢チャーター、2便目が羽田出発 [4]

北朝鮮帰国チャーター担当機長はピーチで活躍
「安全がなければ簡単に倒産する」特集・ピーチ”空飛ぶ副社長”角城機長ラストフライト(後編) [5]