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「リージョナルジェットより景色も燃費も良い」特集・ATRシェーラーCEOに聞く日本戦略

 2017年冬ダイヤでは、ジャンボの愛称で親しまれてきたボーイング747型機の退役や、エアバスA350-900型機の就航路線増加など、大型機の話題を何かと耳にする。

 一方で、大型機とは真逆の地域間を結ぶリージョナル機の分野も、経年機の置き換え問題など、転換期を迎えつつある。特に離島間路線や低需要路線に投入されているターボプロップ機は、採算面の課題などもあり、製造するメーカーや機種が絞られてきている。

沖永良部空港で出発を待つJACのATR42=17年10月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JACのATR42の機内=17年10月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 こうした中、特に50席未満のターボプロップ機は、エアバスなどが出資する仏ATRが新造機市場を事実上独占している状態だ。ATRのターボプロップ機は、48-50席仕様のATR42と68-78席仕様のATR72の2機種に大別される。

 日本国内では、天草エアライン(AMX、AHX/MZ)が初導入し、ATR42-600型機「みぞか号」(登録番号JA01AM)を2016年2月20日に就航させた。そして、日本航空(JAL/JL、9201)グループで鹿児島空港を拠点とする日本エアコミューター(JAC/JC)が、今年4月26日にATR42-600の初号機(JA01JC)の運航を始めた。

 ATRは日本市場について、2025年までにATR機が100機参入できる可能性があると予測する。内訳は、経年機の置き換えが50機、リージョナルジェット機からの切り替えが30機、新路線用機材が20機。特に、エンブラエルのリージョナルジェット機「Eシリーズ」からの切り替えにより、市場拡大を目指す。

 また、ATR42-600の離着陸可能な最短滑走路長を現在の1000メートルから800メートルに短縮したATR42-600Sを、2020年に就航させる計画を進めている。離陸推力の強化やラダーの改良、客室の軽量化などで実現するもので、日本でも離島路線などを中心に売り込みを図る。

 10月に来日したATRのクリスチャン・シェーラーCEO(最高経営責任者)に、日本市場や新型機の見通しなどを聞いた。シェーラーCEOは2016年11月にCEOに就任。それまでは、エアバス・グループ・インターナショナルの執行副社長兼代表として、同グループのグローバル化戦略を指揮していた。

—記事の概要—
日本の地形に適応
デジタルコックピットのスタンダード学べる

日本の地形に適応

── 日本市場にはどのような期待を寄せているか。

ATRのシェーラーCEO=17年10月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

シェーラーCEO:一番重要なのは、日本の航空関係者に対して、ATRがどういうメリットをもたらすかを理解していただくことだ。

 すでに天草エアラインやJACが導入しているが、九州の離島以外でも使える機材であり、日本全土に当てはまることを理解していただきたい。

 日本人は意識が高く、快適性や騒音、二酸化炭素排出量に対して敏感で、知識を持ち合わせている。これはスウェーデンなど北欧諸国と同じで、こうした国で我々の飛行機を使っていただきたいと考えており、日本市場は深く参入したい。

 日本は2020年の東京オリンピック・パラリンピックのようにイベントが続くが、そこで我々ATRの飛行機に乗り、新しいツーリズムを発見して欲しい。例えば、高高度を飛ぶわけではないので、富士山や島々、山脈を楽しんでいただける。しかも、燃料消費量を(70席クラスのリージョナルジェット機と比べて)80%削減できるという良さまでついてくる。

── 日本と同じようなポテンシャルを持っている国はどこか。

JACのATR42からの景色。シェーラーCEOは燃費だけではなく景色の良さも売り込む=17年10月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

シェーラーCEO:アジア太平洋は成長しており、有望な市場だ。地域内を見ていくと、インドは経済成長が著しく、インド政府が地方間を結ぶことが国の成長につながるとして、政府の後押しもあって地域間のコネクティビティの改善を進めている。インドの人口も考えると、大変な潜在力がある。

 そして、インドネシアだ。1万7000の島から成っており、ATRにとってはパラダイスだ。フィリピンやフィジー、トンガ、タヒチ、ニュージーランドもだ。この中では、ニュージーランドが社会的な成熟度などで、日本に近いのではないか。ニュージーランドでは、我々は成功を収めている。

 グローバルに考えると、日本はすでに先進国であり、成熟社会であるので、経済発展に我が社が寄与するというよりは、日本国内の既存の航空会社に対し、リージョナルジェットをATRに置き換えることで、どのような費用削減が実現できるのかや、新たなツーリズムを発見できるところに強みがある。

 利用者もエコに関心を持っており、すごく急ぐのでなければ楽しい旅を選ぶだろう。

 航空会社に対しては、経済的に提案できるものが大きい。ほかの業界でも考えていただきたいが、競合他社に対して、1座席あたりのコストで10%強みがあるというのは、自動車メーカーでも、鉄道会社でも、あり得ないのではないか。みな、1%の世界で戦っている。

 ATRのターボプロップ機は、短距離飛行ではとても効率が良い飛行機だ。特に日本の地形には、ずば抜けてうまく適用するはずだ。地域間移動はおよそ230マイル(約370キロ)に集約でき、ATRのスイートスポットだ。水辺も山脈もあって、地上交通が入るのが難しいところに、我々は入る余地があるはずだ。

デジタルコックピットのスタンダード学べる

日本初のATR導入となった天草エアラインの2代目みぞか号初便=16年2月20日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

── 現在リージョナル機を運航する国内の航空会社からは、ATRはコックピットが現在運航している機材と比べ、先進的すぎるという指摘がある。ATRとしては、どういうソリューションを提供していくか。

シェーラーCEO:世界中どこでも同じだが、トレーニングをしてみて逆行することはない。ATRのコックピットは、エアバスやボーイングの機体の学びの場になるとも言え、若手に対して、新しいデジタルベースのスタンダードを教え込むことになる。

 このため、エアバス機などに若いパイロットが機種移行してしまう可能性はあるのだが、今後は世界中どこの航空会社のパイロットも、デジタルベースのコックピットの機種に乗りたいと考える流れは避けられないだろう。そうした中で、我々はその将来に一番近いものを提供していると考えている。

 国内であれば、天草エアラインやJACのパイロットに聞いていただければ、リアルなフィードバックを得られるのではないか。

── エアバスはシンガポール航空(SIA/SQ)とシミュレーターの共同事業(JV)を行っているが、ATRはパイロット訓練のビジネスについて、どのような考えを持っているのか。

JACのATR42初号機のコックピット=17年3月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

シェーラーCEO:お客様次第で、関心をお持ちであれば考えていきたい。ATRの立場で申し上げると、パイロット訓練は、非常に商業的に成功しているビジネスなので、航空会社によっては「なぜATRにお金を払わなければならないのか」と考えるところもある。

 今はあらゆるビジネスモデルが存在している。例えば、ATRと共同で訓練施設を持っているところや、ATRの施設を使用している航空会社もある。そして、訓練施設を自社で運用しているところもある。お客様の声に耳を傾けて、要望に応えていきたい。

── 新しい機材のビジョンを教えてほしい。787のようにカーボンコンポジット(炭素繊維複合材)を多用しても、近距離だとメリットを生かせないように感じる。

シェーラーCEO:ATRでは、コンポジットは1981年から使っている。(ボンバルディアの)Q400と比較すると、ATRの機体は7トン軽量化されている。もし新素材を(より多く)使えば、7.5トン軽量化できるかもしれない(笑)。

 エアバスやボーイング、ボンバルディアが、(航空機の将来像について)SF的な話をするだろう。エンジンもハイブリッドや電気など、いろいろな話題が出ると思うが、推進力はまだまだプロペラであり、我々が先んじている。「バック・トゥー・ザ・フューチャー」だ!

 オープンローターで動いているプロペラが、冗談抜きで、最先端で一番効率良い推進力だ。そして我々は、100トンの軽量化を実現している。

関連リンク
ATR Aircraft [1](日本語サイト)
Avions De Transport Regional [2]
天草エアライン [3]
日本エアコミューター [4]

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