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「16年度下期は2路線新設」特集・五島社長に聞く黒字化後のバニラエア

 バニラエア(VNL/JW)が、2016年3月期に黒字転換を果たした。前身はマレーシアのエアアジアとANAホールディングス(9202)が出資するLCC、旧エアアジア・ジャパン。両社が合弁解消後の2013年12月20日、ANAホールディングスの100%子会社のLCCとして再就航した。

 リゾート路線に特化し、国内線は成田-那覇線と札幌線、奄美大島線の3路線、国際線は成田-台北線と香港線、高雄線、台北-関西線の4路線を運航している。

 黒字化した要因は何だったのか。そして、ベトナムやフィリピン、中国本土への就航を視野に入れた路線計画、機材計画などを五島勝也社長に聞いた。

バニラエアの五島社長=16年6月7日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
運航品質の安定
台湾就航「タイミング良かった」
ユニットコスト6円台、付帯収入向上へ
以遠権やアライアンス活用

運航品質の安定

── 2016年度3月期は黒字を達成した。旧エアアジア・ジャパン末期から経営に携われて来た感想は。

最終便に手を振る旧エアアジア・ジャパンの社員。暗い気持ちに社員がなっていく中、バニラエアが始動する=13年10月26日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

五島社長:2013年8月に石井(知祥会長)とエアアジア・ジャパンに来たが、当時は300人を超える社員がいて、5機ある機材を返し始めたところだった。会社としても生まれ変わらなければならなかった。

 社員も暗い気持ちになる中、飛行機を返していき、10月26日には運航停止になった(記者注:その後、バニラエアとして同年12月20日就航)。一度エアアジア・ジャパンを立ち上げたのに、またバニラエアとして会社を立ち上げなければならず、社員には同じことを二度やる苦労をかけてしまった。

 ANAホールディングス(9202)から資金提供していただき、3年目で黒字化する目標を立てた。運航開始から2年半くらいで黒字化できたのは、燃油価格の下落という追い風もあったが、ホッとしている。社員にもついてきてもらい、次の発展に向けたスタートラインに立つことができた。

── 黒字化した一番の要素は、燃油価格の下落を除くと何か。

五島社長:運航の安定だ。エアアジア・ジャパンの時は非常に不安定で、定時性が7割。最終便もヒヤヒヤしていた。安全は当たり前で、しっかりオペレーションしましょう、ということになった。

 就航率99%、定時性85%という目標を立てた。それが何という訳ではないが、まず目標を掲げて、みんなで一生懸命取り組んだ。ちゃんと就航することと、定時性が基本であり、大事だ。

 認知度も高まったことで、お客さんがついてくるようになった。

── リゾート路線に特化した戦略は正解だったか。

五島社長:LCCが数ある中で、同じことをやっても成功するかわからないので、ちょっととんがって、リゾート路線で成田からやろう、となった。

 これだけやろう、という集中戦略だった。

台湾就航「タイミング良かった」

── 台北は就航当初から飛ばしているが、第2拠点化を見据えた路線の運航を始めた。

成田を離陸するバニラエアの台北行き初便。リゾート路線に特化して再スタートした=13年12月20日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

五島社長:やってみてわかったことは、インバウンドが強くなった。もともと台北や香港は親日の人が多く、東京から台北へ飛ぶ最初のLCCだった。

 当時は台湾からのLCCもなく、タイミングも良かった。夜中の便を飛ばしたり工夫してみたが、利用していただけた。

 予想以上に台湾は良いマーケットだった。第2拠点化までは至っていないが、飛行機を夜間駐機し、乗員も宿泊してやっていく。台湾の方があちこち行くのに使っていただけるようにしていきたい。

── 力を入れただけのリターンがあった?

五島社長:そうだ。台湾に入っていくためには、安心して利用していただけるようにしなければならない。

── 就航当初から旅行代理店を活用する方針だったが、現在の直販との比率は。

五島社長:10%だ。リアル店舗よりは、オンライン代理店を経由したものが多い。

── 外国人客と日本人客の比率は。

五島社長:国際線は外国人が7割、日本人が3割くらいだ。台北の搭乗口で話を聞くと、バニラだからというより安いからという人もいれば、日本の航空会社だから乗ってみたという人もいる。

 個人的には日本のLCCなので、日本の人に安い運賃をお出しして、海外に行っていただきたい。

 最近は若い人が海外に行かないが、世界に出て見聞を広めて欲しい。外から日本を見て、帰国してまた勉強して、将来世界の役に立つグローバルな人材になって欲しいという夢はある。

 エアラインとしては、相互に交流する機会を提供していきたい。

ユニットコスト6円台、付帯収入向上へ

── ユニットコストはどのくらいか。

足もとが広い1列目のリラックスシートを備えたバニラエアのA320。20年までに25機体制を構築しユニットコストも下げていく=15年2月11日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

五島社長:今は6円台。今後は燃油費で変わってくる可能性はあるが、規模を大きくしてさらに下げていきたい。

 間接人員をさほど増やさずに規模を大きく出来るので、この部分が薄まってくる。現在エアバスA320型機(180席)が9機で、社員が600人を超えているので、もっと規模を拡大して稼働を上げなければならない。

── 付帯収入の比率は。

五島社長:目標は20%だったが、今は15%。20%はいきたい。航空運賃を安くする分、客単価を高く出来るよう、経営していかなければならない。

 国際線では、外国人客が買ってくれる。日本に入国前から千円札を持っていて、日本円で払う人もいるほどだ。

 機内食のメニューも見直しており、今年で就航から3年なのでしっかりレビューしていきたい。

── バニラエアの場合、手荷物の料金が一定程度運賃に含まれている。海外のLCCでは、機内へ持ち込む手荷物の重量やサイズの超過を調べるのが一般的だが、今後どうしたいか。

五島社長:国際線で、特に外国人客が出国する際に超過している例は結構あるので、確認している。個数やサイズ、重量の超過分は、支払ってもらっている。

 段ボール一杯持ち込もうと人もいたり、出発出来なくなるほどのこともあり、ここは厳格にやらせていただいている。

 手荷物の重量制限は、他社は多くが1人7キロまでだが、10キロまでにしている。今のところ、そこを売りにしている。

以遠権やアライアンス活用

── 4月に9号機を受領した。今後の機材や計画は。

低価格運賃の提供に加えて差別化を図ると語るバニラエアの五島社長=16年6月7日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

五島社長:今年度はあと3機来る。2020年までに25機の計画で進めていく。

 A320ceo(記者注:現在運航している従来型のA320)がいずれなくなるので、2019年、2020年の段階になると、(新型エンジンを搭載する)A320neoということもあるかもしれない。現在は2018年までの機材の当て込みを進めている。

 路線については、下期に国際線の新規就航を2つはやろうと思う。中期計画では国内線も検討していくが、インバウンドが強いので、今は国際線からやっていきたい。

 国内線については、現在は南に行く路線が多く、北は札幌のみ。もうちょっとバラエティーを持たせられないか、考えていきたい。インバウンドのお客さんを、いろいろなところへお連れしたい。

 収支が見込めれば、国内線も飛ばすことはできる。もう少し有り様はあるかと思う。

── A320neoより席数の多いA321neoもあり得るのか。

 まだ決めていないが、距離の長い路線もコストアップにならないものを検討したい。以遠権やアライアンスなど、長い距離を飛べる飛行機を使った、新しいLCCのビジネスモデルを考えていきたい。

── アジア太平洋地域のLCC 8社による航空連合「バリューアライアンス」を発足させたが、どのように活用していくか。

五島社長:イメージとしては2つある。一つは、我々のお客さんに対して、うちが飛ばしているところよりも先の都市へ行きたい方に、他社便を乗り継げばいけるサービスを提供すること。

 もう一つは、先方に売ってもらえる。ディストリビューション・アライアンスという言い方もしている。

 大手のようにマイレージやラウンジで提携するのではなく、ネットワークを大きくしている。ウェブサイト上で、1回で目的地まで航空券を買えるようになる。

 アライアンス加盟社であれば、足もとの広い席の指定や、手荷物のオプションも購入できる点が、ほかにはない点だ。

 また、アライアンス加盟社では乗り継ぎ便が遅れた場合、次の空いている便に振り替えるメリットがある。

── 会社の永続性を考え、どのような人材を採用していきたいか。

五島社長:会社がリスタートして2年半が経ち、ようやく振り返ることが出来るようになった。もう一回どういうLCCを目指していくのか、企業理念のようなものを作った。

 そうした中で、我々の使命は低価格運賃を提供し続けて、お客さんや就航地の人に喜んでもらうことだ。低運賃をいかに実現し続けるか。そうすると、創意工夫が大事になる。

 一生懸命チャレンジしていく人に入ってきて欲しいし、今の社員にもそうなって欲しい。社内の風通しもさらに良くしていかなければならない。競合他社も見なければならない。

 後は低価格運賃だけでは厳しい時代になってきた。差別化をどうするかだと思う。LCCだから過剰にお金を掛けることはないが、ホスピタリティだったり、日本のクオリティを追求するのもひとつだと感じている。

関連リンク
バニラ・エア [1]

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