千葉県内で雷を伴う豪雨となるなど不安定な天候が続く中、日本航空(JAL/JL、9201)を中核とするJALグループは、気象データを活用して航空機の被雷を避けるとともに、逃げ場が限られる羽田空港の駐機場(ランプエリア)には、グランドハンドリング(グラハン、地上作業)スタッフの退避場所としてトレーラーハウスを用意するなど、空と地上の両面で雷対策を進めている。

JALのグラハンスタッフが雷退避に使うトレーラーハウス=26年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
トレーラーハウスは、グラハンスタッフが雷から退避するための移動式の退避場所で、羽田に8月13日から1台を先行導入。通常8人程度、緊急時は10人程度が利用でき、バッテリーでエアコンや冷蔵庫などを動かす。窓を多く設け、中にいながら担当する航空機など周囲の状況を確認しやすくした。すでに雷接近時の退避にも使われており、スタッフから意見を集めている。
—記事の概要—
・アスキーアートで雷の危険エリア
・雷接近で地上作業を全面中止
・逃げ場をランプ内に

熱中症対策にも活用するグラハンスタッフが雷退避に使うJALのトレーラーハウス=26年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
アスキーアートで雷の危険エリア
航空機が被雷した場合、到着後に整備士による点検が必要になり、損傷が見つかれば修理や代替機の手配で遅延や欠航につながることがある。ボーイング787型機やエアバスA350型機など炭素繊維複合材を使う機体は、従来のアルミ製機体より被雷時の修復負担が大きいという。特に冬季に多い「誘発雷」は、航空機の気象レーダーでは弱い雲にしか見えない場合があり、被雷する可能性を把握しにくいことが課題だった。

8月12日の羽田発シドニー行きJL51便でLilacの情報を利用したJALの宮田正行機長=26年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
JALはこうした被雷を避けるため、三菱重工業(7011)との共同研究で開発した被雷回避判断支援サービス「Lilac(ライラック)」を2024年4月から国内空港で運用している。航空機が雷を誘発して被雷する危険性を予測し、地上のオペレーション担当者が「アスキーアート(ASCII ART)」と呼ぶ文字で描いた図を使い、パイロットに危険なエリアを伝える。
冬季(12-2月)のLilac対象空港周辺では、2024年度から2025年度にかけて発雷が1.63倍に増えた一方、被雷数は前年度比23.2%減った。前年度の2024年度も、被雷数は前年度比25.3%減っていた。JALは被雷の減少をLilacだけの効果とは言い切れないとしつつ、一定の効果があるとみている。

ASCII ARTによる雷の危険エリアを説明するJALの宮田正行機長=26年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ASCII ARTによる雷の危険エリア=26年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
8月12日の羽田発シドニー行きJL51便で、Lilacの情報を利用した宮田正行機長は、羽田の南側に積乱雲があることは把握できたものの、コックピットの気象レーダーだけでは被雷する可能性までは判断できなかったと説明する。Lilacの情報を基に、離陸後に雲へ近づかない経路を選び、被雷せずに出発できた。
JALによると、被雷による修理費や機材を使用できない間の逸失利益などを含め、年間数億円規模の損失が発生しているという。
雷接近で地上作業を全面中止
羽田の地上部門は、雷の接近に応じて3段階で警戒する。空港から半径50キロ圏内で雷が確認され、接近する可能性がある場合は「Thunderstorm Warning」、20キロ圏内で雷のエコーや雷鳴、雷光が確認されると「Condition 1」、8キロ圏内で雷が観測され、雷光が確認されると最も危険度が高い「Condition 2」を発出する。

雷の接近に応じて3段階で警戒するJAL=26年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田空港内にあるJALのオペレーションセンター=26年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
Condition 2ではランプエリアでの屋外作業をすべて中止し、スタッフに退避を指示する。
直近の事例として、7月26日は雷雲が予報より早く接近し、午後0時30分にThunderstorm Warning、同45分にCondition 1となり、その約15分後にはCondition 2へ移行した。地上作業を50分間中断し、午後1時50分にCondition 1へ戻した後、午後3時に注意状態を解除した。

7月26日の雷の様子=26年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
逃げ場をランプ内に
従来、羽田で雷が発生してグラハンスタッフが退避する場合、控室や最寄りの建物まで戻る必要があった。トレーラーハウスはトーイングトラクターで牽引でき、9月1日から供用開始となる第1ターミナルの北サテライトや、PBB(搭乗橋)のないオープンスポットへの「沖止め」など、周囲に控室がない場所の近くへ設置できる。航空機1便の地上作業を担当するスタッフは通常6人で、1便を担当するチーム全員が入れる大きさとした。Condition 1の段階でも、スタッフが危険を感じれば現場の判断で退避できる。導入初日の8月13日にはCondition 2が発出され、早速スタッフが退避に使用した。

JALのグラハンスタッフが雷退避に使うトレーラーハウス=26年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
トレーラーハウスは雷対策に加え、夏場の熱中症対策にも使う。雨で濡れたスタッフが入ることを想定した防水仕様で、作業時に携行するiPadなどを充電できるコンセントも4カ所設けた。エアコンを24度、風量「弱」で使った場合、約16時間稼働できる試算だという。
JALグループは先行導入した1台で現場の意見を集め、2027年度から本格導入する計画。2027年6月ごろをめどに、羽田に加えて成田や福岡など発着便数の多い空港を中心に展開する。導入台数は未定で、2号機以降は空港の充電設備への依存を減らすため、ポータブルバッテリーの採用も検討している。

JALのグラハンスタッフが雷退避に使うトレーラーハウス=26年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JALのグラハンスタッフが雷退避に使うトレーラーハウスの室内=26年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JALのグラハンスタッフが雷退避に使うトレーラーハウスの室内=26年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JALのグラハンスタッフが雷退避に使うトレーラーハウスに設置された冷蔵庫=26年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JALのグラハンスタッフが雷退避に使うトレーラーハウスに設置された電源コンセント=26年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JALのグラハンスタッフが雷退避に使うトレーラーハウスは熱中症対策にも活用する=26年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JALのグラハンスタッフが雷退避に使うトレーラーハウスの牽引部分=26年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JALのグラハンスタッフが雷退避に使うトレーラーハウス=26年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
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