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ANAとJAL、SAF供給不足に危機感 共同レポート第2版で提言

 全日本空輸(ANA/NH)と日本航空(JAL/JL、9201)は5月27日、2050年の航空輸送のCO2(二酸化炭素)排出実質ゼロに向けた共同レポート「2050年 航空輸送におけるCO2排出実質ゼロへ向けて(第2版)」を策定したと発表した。SAF(持続可能な航空燃料)の供給不足や高コストなどの課題を整理し、供給能力と制度設計のバランスを取った「日本型モデル」の必要性を訴えている。

SAFの共同レポート第2版をまとめたANAの平澤寿一社長(左)とJALの鳥取三津子社長(両社提供)

 ANAとJALは2021年10月に、SAFに関する初の共同レポートを発表。初版では、SAFの理解拡大や量産・普及の必要性を訴え、2030年に使用燃料の少なくとも10%をSAFへ移行する必要があるとしていた。その後、国産SAFの商用化を目指す有志団体「ACT FOR SKY」の設立や、地域と連携した廃食油回収などに取り組んできた。ACT FOR SKYは設立時の16社から、2026年5月時点で50社・団体へ拡大。2025年5月には、国内初となる商用SAFの供給開始も実現した。

 一方で、両社はSAFを巡る課題が「認知と啓発」の段階を超えたとみている。世界的なSAF生産量不足や、従来の航空燃料の数倍に達する製造コスト、原料獲得競争、制度設計など、具体的な課題への対応が必要になっているという。

—記事の概要—
SAF供給量0.6%
3-5倍高いSAF
欧州教訓に日本型モデル
358社・団体が参画

SAF供給量0.6%

 共同レポートでは、ATAG(航空輸送行動グループ)が2026年1月に公表した「Waypoint 2050 第3版」を引用。2050年には38-58%のCO2削減をSAFが担う想定である一方、2025年時点の世界のSAF供給量は全航空燃料の0.6%にとどまるとした。2030年までの5年間でSAF増産や公的支援による価格低廉化が進まなければ、2050年の目標達成が不可能になるか、膨大な社会的コストが発生すると指摘している。

 日本の航空輸送が経済に与える影響も大きい。IATA(国際航空運送協会)の2023年調査によると、日本の航空輸送は200万人の雇用を支え、年間約17兆円規模の経済波及効果をもたらしている。GDP(国内総生産)の2.8%に相当する規模で、政府が掲げる2030年の訪日客6000万人目標の達成や、観光立国としての成長にも安定的な航空ネットワークが欠かせないとした。

 航空は、離島や地方を結ぶ生活インフラでもある。緊急時の医薬品輸送や災害支援など、ライフラインとしての役割も担っており、レポートでは燃料確保を単なる環境対策ではなく、日本の経済安全保障そのものと位置づけている。

3-5倍高いSAF

 SAFは、現在運航している航空機や空港の給油インフラを活用しながらCO2排出量を減らせる燃料。主に流通しているSAFは、従来のジェット燃料と比べてライフサイクルCO2を最大80%程度削減できる。

 一方、主原料となっている廃食油は世界的な争奪戦になっている。廃食油由来SAFの製造・調達コストは、従来のジェット燃料の3倍から5倍程度とされる。

 国内製油所の再編が進む中、従来の化石由来ジェット燃料の供給にも懸念が出ているという。国内で供給できるSAFを十分に確保できなければ、就航地や経由地として日本が選ばれなくなる「ジャパン・パッシング」を招く恐れがあると指摘した。今後は廃食油に加え、広範なバイオマス由来SAFや、再生可能エネルギー由来の合成燃料(e-fuel)も重要になるとしている。

欧州教訓に日本型モデル

 海外では、地域ごとに異なる制度設計が進む。EU(欧州連合)は「ReFuelEU Aviation」により、2050年に混合比率70%を目指してSAFの混合使用を義務化した。しかし、共同レポートでは、供給網が未整備な段階で急進的な導入義務を課すと、需給バランスの不均衡やSAF価格の異常高騰を招くと指摘。IATAがEUと英国での義務化について「SAFの生産と導入を加速させることに失敗した」としていることも紹介した。

 シンガポールでは、2027年1月の出発便から「SAF Levy」を導入する予定。旅客の座席クラスや貨物重量、飛行距離に応じた一定額を賦課金として徴収し、政府がSAFを一括調達する資金に充てる。SAFの価格変動リスクから利用者を保護し、社会全体で脱炭素コストを分担する狙いがある。

 日本では2026年1月に開かれた「持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進に向けた官民協議会」で、将来的なSAF市場の自律的な成長を見据え、燃料供給事業者に一定比率のSAF供給を課す「供給義務化」などの規制的措置を導入することや、利用者に広く一定の負担を求める仕組みを検討する方向が示された。ANAとJALは、欧州の事例を教訓に、制度の導入速度とSAF供給能力のバランスを取った実効性の高い「日本型モデル」の構築が必要だとしている。

358社・団体が参画

 両社は、SAFにより生じるCO2削減の環境価値を証書化し、顧客に提供するプログラムも展開している。ANAは「SAF Flight Initiative」、JALは「JAL Corporate SAF Program」を提供しており、企業のサプライチェーン全体の排出削減にあたる「Scope3削減」に貢献する。今年3月時点で、両社のプログラムには延べ358の企業・団体が参画している。

 共同レポートでは、高コストなSAF導入を社会全体で支え合う「共創モデル」と位置づけている。脱炭素コストへの対応だけでなく、利用企業の出張や輸送に伴う間接排出の削減にもつなげる狙いがある。

 また、2050年のアジア圏SAF市場は約24兆円規模に達すると予測。日本がSAF市場で主導権を確保することは、航空分野の脱炭素化だけでなく、国内のSAFサプライチェーン構築や、再生可能エネルギー関連のイノベーション、新たな経済成長につながる可能性があるとした。

 ANAの平澤寿一社長は、世界のSAFを取り巻く現状は厳しく、燃料確保の遅れは日本の経済安全保障を直接脅かす危機的状況にあるとコメント。日本の空のインフラを将来にわたって維持するため、実効的な枠組みを社会全体で作る必要があると呼び掛けた。

 JALの鳥取三津子社長は、SAF普及には難しい課題があるものの、持続可能な航空の未来を切り開く挑戦を諦めないと説明。ANAや顧客、関係者と連携して取り組む考えを示した。

関連リンク
全日本空輸 [1]
日本航空 [2]

ANAやJALら、国産SAF実用化へ「ACT FOR SKY」設立 代替燃料で脱炭素社会へ [3](22年3月2日)
ANAとJAL、代替燃料「SAF」普及へ共同レポート策定 2050年CO2排出実質ゼロへ [4](21年10月8日)