- Aviation Wire - https://www.aviationwire.jp -

ANAとJAL、羽田で無人貨物搬送「レベル4」実用化 宮澤航空局長「国家プロジェクト」

 全日本空輸(ANA/NH)と日本航空(JAL/JL、9201)は12月15日、羽田空港で完全無人運転となる「自動運転レベル4」の貨物搬送を始めた。国土交通省航空局(JCAB)による「航空イノベーション」の一環で、ANAは国内線定期便での実用化を、JALは羽田と成田の2空港での実用化を、それぞれ国内では初めて実現した。

羽田空港で自動運転レベル4実用化を発表するANAの井上慎一社長とJALの鳥取三津子社長ら=25年12月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
ANAは豊田自動織機と実用化
JALは羽田・成田2空港同時
宮澤局長「国家プロジェクト」

ANAは国内線初

 ANAは12月15日、自動運転レベル4の貨物搬送を羽田空港の国内線定期便で開始。豊田自動織機(6201)製の自動運転トーイングトラクターを使用したもので、空港制限区域内でのレベル4運用は国内で初めて。導入台数は3台で、今年度内にさらに3台を追加する計画となっている。

羽田空港で自動運転レベル4で走行するANAの電動トーイングトラクター=25年12月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 導入されたトーイングトラクターは、自己位置推定や障害物検知システムを高性能化・冗長化することで、空港内の多様な環境条件に対応可能とした。車両の周囲を把握する遠隔監視機能も搭載しており、異常時にも迅速な対応が可能という。

 搬送は第2ターミナルの60・61・65番スポットと東貨物上屋間の片道約1.5キロを走行経路としており、経路上には2カ所の信号機を航空局が設置。自動運転車両が主道路へ合流する際、手動運転車両へ一時停止を促す仕組みを導入している。最大速度は自動運転時で時速15キロ、有人運転時は同25キロで、けん引重量は自動運転時13トン、有人時27トンとなる。

 車両には、路面パターンマッチング(RSPM)や高精度衛星測位(GNSS)、3D LiDAR、磁気誘導といった制御技術が用いられている。

羽田空港で自動運転レベル4で走行するANAの電動トーイングトラクター=25年12月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田空港で自動運転レベル4で走行するANAの電動トーイングトラクター=25年12月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田空港で自動運転レベル4で走行するANAの電動トーイングトラクターと新設された信号機=25年12月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 運用面では、豊田自動織機と共同で開発した「FMS(Fleet Management System)」を導入。搬送指示や運行管理に加え、出発・到着レーンの自動割り当てや信号機との自動連動により、オペレーションの効率化を図る。FMSでは搬送支援指示や車両状態の監視も行い、タイムリーな情報一元化が可能となっている。

 ANAと豊田自動織機は、2017年から空港イノベーションに関する課題解決に取り組み、2019年以降は実証実験や試験運用を重ねてきた。航空局による航空イノベーションの一環として、今後も空港業務の持続的発展に向けて導入範囲の拡大や車両増加に取り組む。

JALは羽田・成田2空港同時

 JALは12月15日、羽田と成田の2空港で自動運転レベル4のトーイングトラクターによる手荷物や貨物の搬送を開始した。空港制限区域でのレベル4実用化を2空港同時に実施するのは国内初となった。羽田に1台、成田は2台の合わせて3台体制でスタートし、羽田は2026年夏前にも追加の2台が加わり計3台に増車し、成田は4月には4台追加し計6台に拡大する。

羽田空港で自動運転レベル4で走行するJALの電動トーイングトラクター=25年12月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 JALは2018年から航空局が進める航空イノベーションの一環として、先端技術の導入に取り組んできた。空港の制限区域内では航空機や特殊車両、作業員が混在することから、安全を最優先に自動運転の実証を進めてきた。今回のレベル4実用化により、省人化や作業効率の向上、電動車両によるCO2(二酸化炭素)排出量の削減を目指す。

 使用する車両は空港ごとに異なり、羽田では丸紅(8002)などが出資するAiRO製トーイングトラクター、成田では長瀬産業(8012)が扱うTractEasy製を採用。羽田では貨物コンテナの搬送、成田では受託手荷物の搬送に使用する。羽田の走行ルートは、東西の貨物地区の貨物上屋間、成田は第2旅客ターミナル本館とサテライトの手荷物荷捌場間を結ぶ。

 JALは、今回のレベル4実用化を起点に、導入台数や走行エリアの拡大を進める方針。今後は羽田と成田以外の空港への展開も視野に、持続可能なグランドハンドリング体制の構築を目指す。

羽田空港で自動運転レベル4で走行する電動トーイングトラクターの運行を管理するFMSを視察する佐々木紀国交副大臣(中央)と鳥取三津子社長=25年12月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田空港で自動運転レベル4で走行するJALの電動トーイングトラクター=25年12月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田空港で自動運転レベル4を実用化した電動トーイングトラクターを紹介するJALの鳥取三津子社長ら=25年12月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

宮澤局長「国家プロジェクト」

 国交省は訪日6000万人目標を見据え、増加する航空需要への対応を急ぐ必要があるとして、「航空イノベーション」を進めている。空港容量の拡大とグランドハンドリングの生産性向上を両輪と位置づけ、大空港における搬送業務の自動化は、人手削減に大きく寄与する分野として重視している。

羽田空港で自動運転レベル4で走行するJALの電動トーイングトラクター=25年12月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田空港でトーイングトラクターの自動運転レベル4実用化の意義を説明する国交省の宮澤康一航空局長=25年12月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 同省の宮澤康一航空局長は、今回の実用化について「あくまで通過点」とし、今後は対象車種や走行区域の拡大、導入台数や空港の拡張が課題になると指摘。空港特有の環境を踏まえ、インフラ整備や制度設計を国が支援し、官民や企業横断の協力、経営トップのコミットメントを前提に、「空港DX技術実装推進会議(仮称)」の早期設置を目指す。「国家プロジェクトとして加速支援していきたい」と述べた。

羽田空港でトーイングトラクターの自動運転レベル4実用化を説明するANAの井上慎一社長(左)=25年12月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 一方で、シンガポールのチャンギ空港や香港国際空港など、海外のハブ空港は自動化など先進的な取り組みが先行している。宮澤局長は「ICAO(国際民間航空機関)やIATA(国際航空運送協会)など国際的な場で日本が議論や基準づくりをリードする場面は多く、技術面での国際的期待は高い」と説明。自動運転や顔認証などの空港DX技術を通じ、日本の空港を技術の「ショーケースにできる可能性があり、十分勝算はある」との認識を示した。

 ANAの井上慎一社長は、現時点では今後展開する空港の選定やJALとの車両共有を前提にした段階には至っていないと説明。「実用化は始まったばかりで、具体的な運用の在り方は「これから考えていく段階」との認識を示した。

 2030年に向けては、6主要空港に50台の配備を目標として掲げているが、具体的な内容は今後検討していく。

羽田空港でトーイングトラクターの自動運転レベル4実用化を説明するJALの鳥取三津子社長(右)=25年12月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 JALの鳥取三津子社長は、グランドハンドリングについて「個社単独では難しく、協業が生きる分野」との認識を示した。現状は各社で進めている部分もあるとした上で、統一や標準化を進めれば効率化できる余地は大きいと指摘した。

 今後については、「スピード感と強い意思を持ち、ANAと共に進めていきたい」との考えを示した。

羽田空港で自動運転レベル4を実用化したANAとJALの電動トーイングトラクター=25年12月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田空港で自動運転レベル4を実用化したJALとANAの電動トーイングトラクター=25年12月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

関連リンク
国土交通省 [1]
全日本空輸 [2]
日本航空 [3]

ANA・JALの自動運転
ANAと豊田自動織機、国内空港初のトラクター無人運転 羽田で試験運用、25年実用化へ [4](24年7月16日)
JAL、自動運転トーイングトラクター導入 国内初、成田空港で [5](21年3月2日)

羽田の自動運転
NEC、羽田制限区域のレベル4自動運転設備受注 25年12月開始へ [6](24年8月23日)