- Aviation Wire - https://www.aviationwire.jp -

なぜJALの遊覧飛行は767が多いのか 特集・新型コロナが生んだ新ビジネス

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で人の往来が制限され、航空各社は大量運休・減便をせざるを得なくなった2020年。一方、航空機は稼働させない状態が長期間続くと、通常とは異なる大がかりな整備が必要になる。このため、大量運休から1カ月半ほどたったころから、日本の航空会社では乗客や貨物を乗せない状態で旅客機を飛ばすようになった。

 パイロット以外は誰も乗っていないことから、これらのフライトは「空(から)飛ばし」や「フェリーフライト(回航)」などと呼ばれ、離陸した空港に40分ほどで戻ってくる。これを遊覧飛行に発展させたのが、各社が運航しているチャーターフライトだ。

 航空機は飛行しない期間が90日を超えた場合、機体をジャッキアップして主脚などを整備する必要があり、通常の整備よりも費用がかさんでしまう。各社では明確な費用増の額を明らかにしていないが、数十分飛ばす方が整備作業が増えるよりは負担が少ないということだ。

成田空港を出発する星空フライトのJL1146便を見送るJAL社員ら。機材はスカイスイート767だ=20年9月26日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 しかし、遊覧飛行に投入される機材を見ていると、航空会社によっては社員から「最新機材を使った方がいいのではないか」との声を聞くものもある。例えば日本航空(JAL/JL、9201)の場合、2013年12月に就航したボーイング767-300ER型機の国際線仕様機に新シートを導入した「スカイスイート767」の投入が目立つ。同社イチ押しの最新鋭機エアバスA350-900型機のほうが、集客面でも効果的に思えるが、一部の例外を除いてこの機材を使い続けているのはなぜなのだろうか。

—記事の概要—
A380が火付け役
高雄週1往復のみの767
意外と飛んでいる787
準備や販売期間も必要

A380が火付け役

 6月22日、全日本空輸(ANA/NH)は総2階建ての超大型機エアバスA380型機「FLYING HONU(フライング・ホヌ)」のフェリーフライトを成田発着で実施。「空飛ぶウミガメ」の意味を持つANAのA380は、成田-ホノルル線の専用機材だが、新型コロナの影響で3月25日に成田へ到着した便を最後に運航停止が続いていた。駐機が90日を超えて整備作業の拡大を回避するため、2号機(登録記号JA382A)が最終運航の翌日から89日目の22日に、初号機(JA381A)は90日目の翌23日に飛んだ。

成田空港を出発するANAのA380初号機(右)と予備の2号機。乗客を乗せない「空(から)飛ばし」が商業運航に成長した=20年8月22日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 このフライトを取材した記事に対し、当紙には「乗客を乗せずに飛ばすなら乗りたい」といった読者の感想が寄せられた。2カ月後の8月22日には初号機を使った成田発着の遊覧飛行が初めて行われ、抽選倍率は150倍にのぼった。空飛ばしが有償旅客を乗せて飛ぶフライトに変わったのだ。

 その後、2号機を使った遊覧が9月20日に開催され、倍率は約110倍。12月12日に開かれた「アーリークリスマスフライト」では35倍まで落ち着きをみせたが、「まだ当選したことがない」という読者の声もみられ、現在も乗ってみたいと思っている人は一定数いるといえる。

 整備理由で乗客のいないフライトを避ける意味もあって始まった、ANAのA380による遊覧飛行。JALが9月に実施したフライトは最新鋭機のA350ではなく、ビジネスクラスにフルフラットシートを採用したスカイスイート767が投入された。

高雄週1往復のみの767

 9月26日、JALは「空たび 星空フライト」(767-300ER、登録記号JA617J)と銘打った成田空港を発着する遊覧飛行を実施した。ANAのA380と同様、新型コロナの影響で運航頻度が落ちている機体を活用したもので、国際線機材であるスカイスイート767が選ばれた。

フルフラットにしたスカイスイート767のビジネスクラスシート=13年11月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 その後もJALは遊覧飛行を幾度か実施しているが、羽田発着で11月に実施された機内でハワイ気分を体験できる遊覧飛行「ハワイ気分周遊フライト」(787-9、JA873J)や、ディズニー映画『ファンタジア』の特別塗装機(767-300ER国内線仕様機、JA622J)といった一部の事例を除くと、スカイスイート767の投入が続いている。

 星空フライトを実施した9月時点で、JALはスカイスイート767を9機稼働させていた。以前はホノルル、コナ、バンクーバー、ジャカルタ、マニラ、高雄など、成田発着の国際線に投入していたが、新型コロナの影響で9月は成田-高雄線を週1往復のみ運航している状態だった。

 このため、星空フライトを企画した段階で、スカイスイート767を稼働させたいという狙いがあった。

意外と飛んでいる787

 JALが運航している中型機はボーイング767と787、大型機は777とエアバスA350だ。機材稼働が落ちている国際線仕様の767を活用しようと遊覧飛行への投入が決まったが、ほかの機種はどうなのだろうか。

羽田空港を出発する「ハワイ気分周遊フライト」JL1801便を見送るJALのスタッフ。787は貨物専用便にも多用されているためチャーターでの確保が難しいようだ=20年11月14日 PHOTO: Kiyoshi OTA/Aviation Wire

 国際線は現在も計画便数のおよそ8割が減便となっているが、一方で乗客を乗せずに旅客機で貨物を運ぶ「貨物専用便」は堅調。床下貨物室に最大45トン程度の貨物を積め、燃費もよいことから、特に787は旅客便は少なくても、貨物専用便に多く投入されている。「実は結構飛んでいる」(JAL幹部)と、787は遊覧飛行に投入するまでもなく、稼働できている点が767と事情が異なる。

 また、JALは新型コロナの影響下でも、これまで進めてきた777をA350で置き換える機材更新を継続している。今年3月末までに777-200ERを国際線から全機退役させ、5機を国内線に転用。その後、2023年3月末までに国内線用の777全13機を退役させる。このため、777は率先して遊覧飛行に投入してまで稼働を高める機材とは言いがたい。

 一方、国内線は9月時点では減便率が4割だった。新型コロナの感染再拡大で年末年始を中心に追加減便を実施したが、12月の減便率は22%、1月は26%と厳しい状況ではあるものの、国際線と比べれば回復傾向がみられる。国内線も、A350や787といった機齢が若く、運航コストを抑えられる機体の稼働率は必然的に高い。

準備や販売期間も必要

 稼働率が高いということは、遊覧飛行に使える機材が直近まで確定できない可能性も高まるということだ。例えばA350で遊覧飛行を企画したいと考えても、実際に機材を開催日に投入できるかがわかるまでに時間がかかってしまうと、準備やフライトの販売に時間を割けなくなってしまう。

ハワイ島のコナ空港で出発を待つJALのスカイスイート767。”本業”への復帰はいつになるのだろうか=19年12月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 退役が迫る777は遊覧飛行の機材からまず外れ、次に貨物専用便にも投入している787の国際線仕様機も外れ、国内線新機材であるA350や787の国内線仕様機も外れる。結果として、ビジネスクラスにフルフラットシートを採用した国際線機材であるスカイスイート767が、一番投入しやすい機材になる。さまざまな機種がある割に、選択肢はないに等しいと言えるだろう。

 JALの遊覧飛行が、ほぼスカイスイート767によるものとなる理由は、機材の稼働率だけでなく、先行きが不透明で減便など運航スケジュールの突発的な見直しもあり、機材を数カ月前から確保しにくい状況であることも影響しているといえる。

 しかし、遊覧飛行自体が徐々に物珍しいものではなくなってきており、従来通りの企画で利用者の心をつかめるかは疑問だ。もちろん、これまで当選しなかった人にとっては乗ってみたいものでも、半年近く経過するとリピーターを獲得する必要も出てくるだろう。

 遊覧飛行は航空会社の巨額の赤字を一瞬にして消し去るものではないが、フライトという本業で収益に貢献する点、飛行機に乗りたいという利用者の気持ちに応える点で、効果が期待できるもの。一方で、新型コロナの感染再拡大により影響の長期化は避けられず、いかにして真新しいサービスや商品を打ち出せるかも重要だ。また、あまり多頻度で運航してしまうと、物珍しさを感じにくいものになってしまう。

 中国から新型コロナが拡散してまもなく1年。今年はどのような企画が登場するのだろうか。

関連リンク
日本航空 [1]

スカイスイート767で運航
JAL、成田発着で「星空フライト」 国際線767活用、即日完売 [2](20年9月27日)

ハワイ気分チャーターは787
JAL、リゾッチャ制服とビンゴ復活 羽田からハワイ気分楽しむ遊覧飛行 [3](20年11月14日)

ANAのA380
ANA、A380でクリスマス前の遊覧飛行 成田発着で機内食や夜景も [4](20年12月12日)
ANA”空飛ぶウミガメ”A380、遊覧飛行2回目は緑の2号機 倍率110倍 [5](20年9月20日)
ANA空飛ぶウミガメA380、成田発着で遊覧飛行 抽選150倍、2機並びも [6](20年8月22日)