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旅は人を幸せにする? ANAが「旅と学びの協議会」始動

 旅の効能を科学的に追求しようと、全日本空輸(ANA/NH)を傘下に持つANAホールディングス(ANAHD、9202)は「旅と学びの協議会」を設立した。有識者の中核メンバーとして、立命館アジア太平洋大学(APU)の出口治明学長らが参加し、旅を通じた学びと幸せが人間の成長に及ぼす効果を科学的に立証することに産学連携で挑戦するという。

 キックオフイベントは、協議会のFacebookページで6月23日に開かれ、出口氏の基調講演や「これからの旅と学びと幸せ」についてのパネルディスカッションなどが行われた。ANAは旅先で地域課題の解決につながるアイデアを提案する教育プログラム「イノ旅」を実施しており、このデータに基づいた旅の効用の検証や、移動距離と人としての成長や成熟の関係性の研究、有識者と一般参加者による勉強会を開き、次世代教育体系構築の提言などを今後行っていく。

—記事の概要—
偶然が成長につながる
教育の一環として旅を

偶然が成長につながる

 有識者の中核メンバーとして出口氏のほか、東京学芸大学大学院准教授でスタディサプリ教育AI研究所の小宮山利恵子所長、慶應義塾大学大学院の前野隆司教授(システムデザイン・マネジメント研究科)、駒沢女子大学の鮫島卓准教授(観光文化学類)を招き、出口氏が協議会の代表理事を務める。

ANAホールディングスが立ち上げた「旅と学びの協議会」のパネルディスカッションにZoomで参加する(左上から時計回りで)出口氏、小宮山氏、鮫島氏、前野氏

 23日の基調講演で、出口氏は人間が賢くなる手段は「人・本・旅」と述べ、「人・本・旅から学ぶべきポイントは知識ではなく、考え方やパターンだと思う。いろいろな人と出会ったり世界を旅して、いろいろな文化や伝統を目の当たりにして考え方をまねることで、はじめてものになる。料理を最初はレシピ通り作ることから始まるのと同じ。考え方や発想のパターンを学ぶことで、初めて型破りができる」と参加者に語りかけた。

 小宮山氏をモデレーターとするパネルディスカッションでは、米国に留学経験のある前野氏が「留学するまでは知識で考えていたが、体験は全然違う。体験しない学習は“うそ”。知識と体験は比べようがない」と、米国生活で見えてきた考え方などがあったと、自らの体験を披露した。

 新型コロナウイルスの感染拡大後に増えたテレワークやビデオ会議についても、「想定外のことが起きにくい。実際の会議は思いもよらない人と会うことがある」(前野氏)として、「想定外が旅の良さだと思う」と、偶発的な人や体験との出会いは旅にも共通する良さだと語った。

 鮫島氏は人類が定住生活を始める以前の移動について、「移動することが生きるためだったと同時に、社会を変えることにつながっていた。(定住前は)逃げることが積極的なものだった。定住社会になってからの最初の旅はお参りなど信仰の旅だった。当時の移動は基本は徒歩で、宿や道路も整備されていない。旅自体が修行や苦行で、人間を成長させるものだった」と、人類と旅の関係にふれた。

 移動の仕方について鮫島氏は「プロセス自体を大切にしたほうがいい。ビジネスの種は脇にあったものを見つけて事業化したケースが多い。意図された偶発性だ」と述べた。

 出口氏は、「いろいろな制約から解放されることが人間の幸せにつながる。みんな社会常識のよろい兜をかぶっている。それをどんどん捨てて解放され、自由になることが幸せだと思う。一番気づきを得られるのは、慣れ親しんだ居所から移動することだ。定住していたら、運とか偶然に出会う確率は低くなる。移動していれば確率が高まり、そのたびに人間は適応しなければならない。しんどいけれど、結構楽しい」と語った。

教育の一環として旅を

 ANAHDのグループ経営戦略室事業推進部長で、協議会の事務局を務める津田佳明氏は「旅や移動の価値がコロナで変わると思う。移動しなくていい移動、Zoomなどにバーチャルに置き換わってしまう移動、価値が変わることなく存続する移動がある。しかし、これだけだと移動が減ってしまう。コロナで価値が生まれたり、再認識される移動もあると思う。人生を豊かにする取り組みを温めてきたが、今は実現するいいチャンスだと考えた」と、協議会の狙いに触れた。

新型コロナウイルスの影響で運休や減便が大量に生じているANA。協議会では今後の旅や移動の価値についても議論していく=20年4月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 津田氏によると、小中高生を持つ親が教育にかける額は年間4兆5000億円にのぼるという。「その一部を教育の一環として旅に使い、現代版『かわいい子には旅をさせろ』のムーブメントを起こしたい」(津田氏)と意気込みを語った。

 協議会の企画は新型コロナウイルスの感染拡大前から進めていたものだといい、「人と会うことや、リアルで五感を使う大切さに気がついた。コロナでよりそこに対する感度が高まった」(同)と、新型コロナを契機に旅のあり方を見直す時期に適した取り組みになったという。

 一方で、若年層のパスポート取得が広がらないなどの課題から、空港会社が取得を呼びかける取り組みもみられる。出口氏は「本を読まないのと同じで、大人が悪い」と指摘し、政府などが企業が若手社員を留学させることを支援する取り組みができれば、取得者増につなげられるとの考えを示した。

関連リンク
【23日の動画】 \『旅と学びの協議会』キックオフイベント/ 〜ホモサピエンス20万年にわたる移動の歴史からみる「旅と学びと幸せ」の関係性〜 [1](旅と学びの協議会のFacebook)
旅と学びの協議会 [2]
全日本空輸 [3]

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