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【CEO直撃】超音速機ベンチャーBoom、実証機XB-1を19年末ロールアウトへ 西海岸まで5.5時間

 超音速旅客機を開発中の米Boom Technology(ブーム・テクノロジー、本社デンバー)は、超音速飛行の技術実証機「XB-1」を年末までにロールアウト(お披露目)する計画だ。マッハ2.2(時速換算2335キロ)で飛行する史上最速の旅客機を、2020年代半ばに実現させるプロジェクトで、日本航空(JAL/JL、9201)も1000万ドルの資金を提供している。

19年末までに超音速実証機XB-1をロールアウトするBoomのショールCEO=19年5月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
遠くに住む人を隣人に
20年代半ば実用化へ
アフターバーナーなしでマッハ2.2
JALと提携

遠くに住む人を隣人に

 創業者兼CEO(最高経営責任者)のブレイク・ショール氏は、2014年9月にBoomを設立。アマゾンやグルーポンで要職を務めたショール氏は、幼いころから航空に興味を抱いており、2008年にはパイロットのライセンスを取得している。

デンバーの本社でAviation Wireの単独インタビューに応じるBoomのショールCEO=19年5月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「人類はさまざまな分野で進歩を遂げているが、フライトは1950年代と同じくらいの時間がかかっている。2倍の速さで飛べるようになれば、世界は2倍小さくなり、遠く離れた地に住む人を身近な隣人に変える」と、ショール氏はBoomを設立した経緯を語る。

 現在、東京から米国西海岸のサンフランシスコまでは約11時間かかる。Boomの計画はこれを5時間半ほどにするもので、「今は2泊3日かかるが、1泊2日でも行き来できるようになる」(ショール氏)と、時差の関係で最低3日はかかる東京と西海岸の往来にかかる時間の半減が期待される。

 米大陸の横断も、現在の約5時間が半分になれば、2時間半で済むようになる。超音速旅客機の実現は、海外と米国の距離だけではなく、西海岸と東海岸の距離的な課題の解決にもつながる。

20年代半ば実用化へ

 Boomが開発中の超音速旅客機は、洋上の巡航速度がマッハ2.2と、現在の航空機の約2.6倍の速度実現を目指している。マッハ2.2で飛行する技術を検証するのが2人乗りのXB-1で、同社初の超音速旅客機となるのが「Overture(オーバーチュア)」だ。

デンバーのBoom本社に展示されたOvertureの新旧モデルプレーン。手前が現行設計によるもの=19年5月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 Overtureは、英語で序章やクラシック音楽の序曲を意味し、航空会社のビジネスクラスに相当する55-75人の乗客を乗せられるようにする。運賃もビジネスクラス並みに設定できるよう、運航コストを抑えることが目標だ。

 現在の進捗状況は、XB-1の最終組立が今夏から始まり、年末までにロールアウト、2020年に超音速飛行を目指す。炭素複合材製の機体形状はコンピューターによるシミュレーションと、風洞実験で検証された。

 Overtureは設計段階で、XB-1による検証結果などを反映し、2020年代半ばの実用化を目標に掲げている。

アフターバーナーなしでマッハ2.2

 機体の構造を見ると、XB-1とOvertureはともに主翼の形状はデルタ翼を採用し、吸気口内にはマッハ2.2を実現するための可変型整流板を設ける。

デンバーのBoom本社に展示されたXB-1の検証用模型=19年5月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 エンジンはいずれも3基だが、XB-1ではアフターバーナーを使ってマッハ2.2を実現するのに対し、Overtureはアフターバーナーなしで実現を目指す。

 XB-1は既存のGE製J85-15エンジンを使用する。一方、Overtureはコンコルドの時代から約50年の技術革新により、アフターバーナーなしでも中バイパス比のターボファンエンジンで、マッハ2.2を実現できるという。エンジンを3基にしたのは、信頼性と離陸時の騒音低減が狙いだという。

 コンコルドは現役時代に騒音が空港周辺で大きな問題となり、アフターバーナーの使用により燃費が悪化する経済性の悪さや、環境への悪影響があったためだ。

 Overtureは70人前後の乗客のほか、パイロット2人と最大4人の客室乗務員が乗務することを想定している。

 デンバーの本社に置かれたモックアップは、通路を挟んで1席ずつの1列2席配置で、フルフラットになるビジネスクラスシートを設置することを想定していた。機体が細いことから頭上のオーバーヘッドビン(手荷物収納棚)は設けず、シートの下にロッカーが用意されていた。

JALと提携

 2018年に現在地に移転したというデンバーの本社は、従来の5倍の広さで、約150人が働く。壁面にはロッキードSR-71など、航空史で偉業を成し遂げた機体が描かれていた。開放的なオフィスで働く人のほとんどは、技術者だという。

デンバーのBoom本社に展示されたJALのモデルプレーン=19年5月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「東京と西海岸を5時間半で結ぶ時代は来る。航空会社として協力したい」と、JALのイノベーション推進本部長の西畑智博・常務執行役員は、Boomを支援する狙いを、こう話した。JALはBoomと2017年12月に提携して出資したほか、航空会社の視点で仕様策定などのサポートやプロモーションに協力し、将来の優先発注権を20機分持つ。航空会社ではJALのほか、ヴァージングループもBoomを支援している。

 Boomの担当者も、「70年近い歴史の中で、JALはサービスと乗客の快適さについて多くの知見を持っており、彼らの経験から学ぶことで、Overtureの将来の乗客に最高の経験をもたらすだろう」と、提携する意義を話した。

 ビジネスクラス並みの運賃で、飛行時間の半減を目指すBoom。XB-1が年末までに姿を表わせば、現実味が増すだろう。

*写真は27枚。

デンバーにあるBoom本社=19年5月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

デンバーのBoom本社に展示された風洞実験模型=19年5月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire