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ハネウェル、3万フィート上空で高速ネット接続デモ 成田に757試験機飛来

 機内からのインターネット接続サービスが普及する中、米ハネウェルは乗客向けに加え、機体の状態を地上で共有できるシステムを航空会社などに向けて提供している。

 5月31日からは、ハネウェルが保有するボーイング757-200型機を改修したテスト機(登録番号N757HW)を使い、サービス内容を航空会社などの関係者に披露するワールドツアーを開催。7月は中国を皮切りに、アジア太平洋地域の各地を訪れている。

成田空港で出発を待つハネウェルの757試験機=17年7月12日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
地上と変わらないネット接続
欠航や遅延35%削減も
元イースタン航空の757

地上と変わらないネット接続

 日本では、7月11日と12日に成田空港で開催。官公庁や航空会社、サプライヤーなどを招き、3回のデモフライトを実施した。

 デモフライトは、成田発着で房総半島東側の太平洋上を1時間ほど飛行。高速インターネット接続を実現する「JetWave システム」のほか、運航や整備を支援するシステムを紹介した。

旧イースタン航空の機体を改修したハネウェルの757試験機の機内=17年7月12日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

さまざまな機器が設置されたハネウェルの757試験機の機内=17年7月12日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 JetWaveでは、通信衛星「インマルサット」により機内インターネット接続サービスを提供。高周波の周波数帯「Kaバンド」を使うことから、ハネウェル・エアロスペースのアジア太平洋事業開発ディレクター、ポール・ネフ氏は「接続スピードが地上と変わらない」とアピールする。

 757試験機は、機体後部の屋外に衛星通信用のアンテナを設置。現在使用している機器「MCS-8200」の通信速度は最高50Mbpsとなる。2010年代に入り、国内の携帯各社が提供を開始したLTEによるサービスと比べると、おおむね提供開始当時の最高75Mbpsに近い値だ。

 衛星によるネット接続では、米パナソニック・アビオニクスが「Kuバンド」を使ったサービスを提供しているが、KaバンドはKuバンドに比べ、天候により通信速度が左右されることが少ないという。

衛星と通信する屋外アンテナ底面と機内のハブを結ぶケーブル=17年7月12日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 このため、JetWaveは安定した高速接続が実現できると、ハネウェルはアピールしている。機内でも、iOS版の接続速度測定アプリ「SPEEDTEST」により、下り(ダウンロード)42.41Mbps、上り(アップロード)4.26Mbps、ピング(ping)711msという数値を記録していた。

 私も757試験機に搭乗し、房総半島沖の3万フィート上空でiPhoneの通話アプリ「FaceTime」を使ってみた。ビデオ通話はつながったものの、快適に使うことは難しかったが、音声通話は地上とまったく変わらない音質で利用できた。ウェブサイトの閲覧も、当紙のような文字と写真が中心のニュースサイトでは、特に問題なく接続できた。

 ハネウェルによると、アジア太平洋地域における過去数年の実績として、ニュージーランド航空(ANZ/NZ)やシンガポール航空(SIA/SQ)、スリランカ航空(ALK/UL)、ベトナム航空(HVN/VN)などが、JetWaveを採用しているという。

 ネフ氏は「通信環境を1社で提供しているので、カットオフやハンドオーバーが起きない」と述べ、JetWaveでは通信会社をまたぐことによる通信途絶が起きないメリットを語った。

 また、ハネウェルではインマルサットに加え、通信衛星「イリジウム」の回線も活用。二つの衛星の長所を利用できるようにしているという。通信内容についても、「ハッキングがあってはならない」(ネフ氏)として、セキュリティー対策も力を入れている。

ハネウェルの757試験機で実施した通信速度テストの結果。ダウンロードは42.41Mbpsを記録していた=17年7月12日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

欠航や遅延35%削減も

機内からの高速ネット接続について説明するハネウェル・エアロスペースのネフ氏=17年7月12日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ハネウェルでは、この高速インターネット接続を活用し、運航コスト削減につながるシステム「GoDirect」を提案している。

 単に乗客がWi-Fi機器によるインターネット接続を利用するだけではなく、気象情報や機体のコンディションを地上とやりとりすることで、乱気流を回避して飛行したり、到着後の便間整備時に、交換すべき部品の情報を共有するといったシステムを用意している。

 「GoDirect Flight Preview」は、パイロットに対し、離陸前に滑走路と周辺の地形の正確な3D画像を提供。「GoDirect Weather」は、パイロットに航路上の気象情報をリアルタイムで提供し、同じ航路を先行する便などからも情報を受信することで、揺れの少ないフライトをサポートする。

 「GoDirect Fuel Efficiency」は、機体をモニタリング・分析することで、燃費を最適化。パイロットはもっとも燃費の良い航路を選択できるようになる。また、「GoDirect Connected Maintenance」では、APU(補助動力装置)や主脚、ブレーキなどの故障を予測し、事前に修理するために必要な情報を整備部門に提供できる。

成田空港の滑走路16Rを離陸するハネウェルの757試験機=17年7月12日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ハネウェルとキャセイパシフィック航空は、エアバスA330型機の稼働率を改善する実証実験を共同で実施。機体からインターネット経由で収集したデータを、1%以下のエラー率で解析したところ、遅延や欠航を最大35%削減でき、1機あたり数十万ドルの運航・整備コストの削減につながるという。

 キャセイは今後、A330とボーイング777型機にGoDirectによるメンテナンス・サービスの導入を検討していく。

 ネフ氏は、「運航にかかわるすべての人が満足できる」と、JetWaveを核とするGoDirectシステムをアピールした。

元イースタン航空の757

 ハネウェルは、エンジンや航空関連機器の試験機として、2005年に当時のイースタン航空から中古の757-200を購入し、「ハネウェルB757試験機(Honeywell B757 Test Aircraft)」と名付けた。

成田空港のA滑走路へ向かうハネウェルの757試験機。衛星通信用アンテナは機体後部に設けられている=17年7月12日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

成田空港を離陸し台北へ向かうハネウェルの757試験機=17年7月12日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 757はエンジンが2基ある双発機だが、試験用エンジンを取り付けるため、右前方胴体にもパイロンを設けてあり、最大3基のエンジンが付く。

 同社での初飛行は2008年10月で、機体に「コネクテッド エアクラフト(Connected Aircraft)」と描かれた現在の仕様では、2015年9月に初めてJetWaveの試験を実施した。

 今回、成田でのデモフライトを7月12日に終えたコネクテッド エアクラフトは、13日に台北の台湾桃園国際空港、15日に香港国際空港、17日にマレーシアのクアラルンプール国際空港、18日と19日にシンガポールのチャンギ国際空港で、デモフライトを実施した。

 今後は20日にインドネシアのジャカルタのスカルノ・ハッタ国際空港、24日に豪州のメルボルン空港で実施し、25日のキャンベラ国際空港が最終日となる。

*757試験機の写真特集はこちら [1]

関連リンク
Honeywell Aerospace [2]
JetWave [3]
GoDirect Cabin Connectivity [4]
GoDirect Flight Preview [5]
GoDirect Flight Services [6]
GoDirect Weather [7]
GoDirect Fuel Efficiency [8]
GoDirect Maintenance and Service Plans [9]

写真特集・ハネウェル757試験機「Connected Aircraft」
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