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快適性求めたJALスカイスイート GKインダストリアルがこだわった操作性と居住性の両立

 成田-ロンドン線に2013年1月9日から就航する日本航空(JAL、9201)の国際線用ボーイング777-300ER型機の新仕様機「SKY SUITE 777(スカイスイート 777)」。全クラスに新シートを導入し、世界的に競争が激しいビジネスクラスではフルフラットや全席通路アクセスといったトレンドを取り入れつつ、寝心地にこだわった。

 こうした全クラスの新シートとインテリアのデザインを手がけたのが、日本のインダストリアルデザインの第一人者、GKインダストリアルデザイン(GKID)だ。設立間もない頃にデザインしたキッコーマンの卓上しょうゆのビンが有名で、JR東日本の成田エクスプレス用E259系などの鉄道車両も手がける。

 スカイスイートのシートデザインについて、プロジェクトを統括した阿久津雄一さんにビジネスクラスを中心にお話を伺った。

ビジネスクラスのスケッチを手にするGKインダストリアルデザインの阿久津さん=12年12月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

新生JALが伝わる機内

ビジネスクラスを中心としたデザインスケッチ=12年12月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 GKIDとJALとの共同作業は、2002年に導入が始まったビジネスクラスの「シェルフラットシート」の開発途中からスタート。以来、JALのシート開発に10年以上携わってきた。従来航空機のシートは、メーカーがデザインしたものを航空会社ごとに布地を変える程度だったが、2000年前後からインダストリアルデザイナーが参加するケースが出てきた。シェルフラットも、2003年度のグッドデザイン賞などを受賞。GKIDのデザインが評価された。

 阿久津さんによると、これまではシートごとの開発に携わってきたが、全4クラスのシートとインテリアをすべて手がける機内全体のプロジェクトは、今回のスカイスイートが初めてだという。

 GKIDではプロジェクトチームを組み、阿久津さんを含めて5人のデザイナーがフル稼働で対応した。ファーストクラスは若尾講介さん、ビジネスは松本学さん、プレミアムエコノミーは迫坪知広さん、エコノミーは細萱ひとみさんが担当。インテリア関係は松本さんと細萱さんが手がけ、取りまとめを阿久津さんが行った。

 全体のコンセプトはJALとともに固め、「ひとクラス上の最高品質」となった。世界的に航空会社間の競争が激化しているので、各クラスを個性的にしていくことが決定。また、10年1月19日の経営破綻を経て、新生JALが伝わる機内であることが求められた。

シートを重くせずに立体感を出す

織り方や色合いで立体感や深みを出す工夫を施したシート布地=12年12月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 機内全体は、「伝統」「革新」「日本の心」を表現。色調も自然の流れを感じられるよう、ブランドカラーである赤色の揺らぎや色の移ろいを空間に取り入れた。カーペットも、ビジネスからエコノミーは流れを感じさせる模様をあしらった。また、従来はグレーが基調だったが鮮やかな色合いに仕上げた。

 しかし、機内デザインでは使用できる素材や重量を抑えなければならないなどの制約が多い。「目標がないと簡単なほうに流れてしまいますね」と語る阿久津さんは一例として、エコノミークラスのシートで立体感を出すため、織り方と色合いで立体感や深みを出す工夫を挙げた。これにより、シートの重量が増えることを回避しつつ、意図したデザインにたどり着くことができた。

 ビジネスクラスでは、設計の初期段階から発泡スチロール製の原寸モデル「ワーキング・モックアップ」を製作。パーティションの効果や開放感や閉鎖感、操作性などを検証していった。客室乗務員や整備士も参加し、乗客の目線だけではなく、現場のスタッフが扱いやすいシートを目指した。

操作性と居住性の両立

素材のサンプルを貼り付けたマテリアルボード=12年12月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「限られたスペースの取り合いになるので、どちらかを優先すると、どちらかがダメになるんです」。阿久津さんがビジネスクラスのデザインをまとめる際に苦労した点が、操作性と居住性の両立だった。

 快適にするには広くしたいが、操作性を考えるとコントローラーなどは手元に置きたい──。こうした部分をワーキング・モックアップで検証を重ねていったという。

 現在シートの設計には3次元CADが多用されているが、3次元のイラストでも操作感まではわからない。「どんなに精巧な3次元イラストが送られてきても、ラフなものでも原寸で検討できたことは重要でした」と、原寸のモックアップと3次元イラストの良いところを取り入れた検証が重要だったという。

 シートの材質も、「マテリアルボード」と呼ばれる素材のサンプルを貼り付けたボードを活用することで、色調だけでなく質感もJAL側と共有して開発が進められた。

快適さを追求したビジネスクラス

 スカイスイートのビジネスクラスは全席通路アクセスが可能だ。窓側は窓の景色を大切にする人、通路側はプライバシーを守りつつ圧迫感が少ない場所を好む人、中央は自席にこもりたい人と、乗客のニーズに応じた個室になっている。

居住性と寝心地にこだわったビジネスクラス=12年12月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 シートのデザインそのものはメーカーが行うが、阿久津さんたちは、ひじ掛けの収まりを検証して“えぐり”を設けるなど、細かい部分の快適性を追求。寝心地を重視したのがビジネスクラスの特徴だが、阿久津さんたちはシートに寝た際に周囲がどのように見えるかや操作感など、空間の使い勝手を検証した。

 「日本人は床に座る生活。これが機内でもできます」と話す阿久津さんは、壁にもたれてくつろげる点をフルフラットの利点として挙げる。また、長時間滞在する場所なので、機内を個性的な店が並ぶ街並みとしてイメージしたという。ビジネスクラスは、寺や庭の中の東屋、めい想といったキーワードでデザインを進めてきたそうだ。

 年明け1月9日に初便がロンドンへ向けて出発するスカイスイート。生みの親のひとりとして、阿久津さんは「どんな使い方をお客さんがするのか楽しみです」と語った。

スカイスイートを担当した(左から)松本さん(ビジネス)、細萱さん(エコノミー)、阿久津さん(統括)、若尾さん(ファースト)、迫坪さん(プレエコ)=12年12月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

関連リンク
GKインダストリアルデザイン [1]
スカイスイート 777 [2](日本航空)

スカイスイート 777
機内公開
日航、新国際線機「スカイスイート 777」の機内公開 1月9日ロンドン線就航 [3]
ビジネスクラス担当者・関係者インタビュー
「寝心地重視したビジネスでくつろいで」 JALスカイスイート担当者に聞く [4]
寝具もこだわったJALスカイスイート、エアウィーヴ最上位をビジネスに [5]
機内食・シート担当者インタビュー
「オーベルジュへ泊まりに来てください」 JAL国際線新機内食担当CAに聞く [6]
「今さらフルフラット?」と思われないビジネスに JAL国際線新シート担当者に聞く [7]
シート写真特集
JALの777-300ER新シート ファースト・ビジネス編 [8]
JALの777-300ER新シート プレエコ・エコノミー編 [9]
スカイスイート 777発表会
日航、1クラス上のシートと“空のレストラン” 13年から国際線777で新サービス [10]
その他
日航、新制服をお披露目 CAは鶴丸モチーフ 13年上期から [11]